日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol. 37

1. 「第1回Patient Experience Asia Summit」開催
2.〔連載〕「PXとわたし」第4回 引田紅花さん
3. 今後の予定

1.「第1回Patient Experience Asia Summit」講演紹介


12月5~6日の2日間、シンガポールにて「第1回Patient Experience Asia Summit」が開催されました。今回はサミットの講演の一部をご紹介します。

1つ目は、アポロ病院COOのSantosh Marathe氏の講演です。

Santosh Marathe COO

アポロ病院は、1983年にインド人医師のプラーサ・レディ博士がチェンナイ市に創設した病院です。
レディ博士が創設したインド初の企業立病院であるアポロ病院グループは現在、アジアでも最大規模の企業立病院グループとなっています。インド国内の主要都市はもとより、バングラディッシュのダッカやモーリシャスにも展開しています。

ニューデリーのアポロ病院は、インドでJCI(Joint Commission International)の認定を最初に取得した病院です。アポロ病院グループに属する一部の病院の株式は公開され、高収益企業として高く評価されています。

そんなアポロ病院のCOOであるMarathe氏は、「統一された運用管理のための集中型患者データシステムの構築」をテーマに、患者データの収集とその運用について語りました。
Marathe氏はデータ収集時の大きな問題として、月別データをとっていても公開されるのは翌月になってしまうなど、リアルタイムでないことを挙げています。また、データ収集、運用において多くの病院が陥りやすいシナリオとして、収集に最も時間をかけ、レポート、分析、組織戦略と運用のフェーズが進むにつれて、割く時間が少なくなっていくと指摘。理想的な時間の使い方は、データの収集の時間を効率化し、分析などの運用に時間をかけることだと主張し、ITの活用を挙げていました。

PXサーベイの実施方法についてもiPadの活用などを進め、「リアルタイム」を意識していきたいです。

 

2つ目は、United Family HealthcareのMiriam Brofman氏の講演です。

Miriam Brofman manager

Miriam氏は、PXと職員エンゲージメントの関係性について、現場での取り組みをもとに紹介しました。

「医療従事者はもともと個人的なモチベーションを持ち、人の命を救いたいとの思いから医療従事者になった。患者中心ケアモデルは、このモチベーションを満たす機会創出になる」とMiriam氏は述べています。また、「職員のエンゲージメントとは、組織に対してどの程度心理的につぎ込めるかの度合い」としており、国際比較では、日本はエンゲージメントのレベルが非常に低いと言及していました。

Miriam氏がマネジャーを務めるUnited Family Healthcareは「アジアのプレミアムスタンダードな組織になること」をビジョンに掲げ、さまざまな取り組みをしています。

その1つに、経験学習としてペイシェント・ジャーニートレーニングの実施があります。患者役、医師役、オブザーバー役など役割を指定し、患者が駐車場に車を止めて、受付に行き、診察・診断を受けるといった一連の受診の流れを実際に経験し、その場でお互いのエクスペリエンスをシェアしたり、フィードバックしたりするといったものです。
ほかにも、経営陣が自室のドアを開けてスタッフが訪れやすい環境をつくったり、スタッフサポートのサービスを提供したり、スタッフ間でサンキューカードを送ったりしているとのことです。

このような取り組みにより、患者満足度のスコアが改善されるだけでなく、医師の自己効力感が改善され、医師の燃えつき症候群も減った病院もあります。医療者のエンゲージメントを高めることがPX向上につながると述べていました。

「職員エンゲージメントの低さ」は日本の医療現場の大きな課題であり、PX向上のためにも解決しなければならない問題ですね。

 

2.〔連載〕「PXとわたし」第4回 引田紅花さん


第4回は、前橋赤十字病院の引田紅花さんが登場。日本版PXサーベイを自院で実施した“切り込み隊長”です。実際にサーベイを実施した立場から語るPXは、説得力あります。

 

☆PX研究会との出合いと、勉強会に参加して思うこと

自院の名誉院長が会の発足時に顧問をしていた縁で、PX研究会の存在を知りました。初期の頃の勉強会でテーマになった「人を動かす文章の書き方(基礎編)」を聴講したくて参加したのがきっかけです。PXについては全く知識ゼロだったので、恐る恐る出向いたのを懐かしく思い出します。

PXという概念はまだまだ日本では浸透していませんが、アメリカで開催されている大規模なサミットやそのアジア版の報告も読ませていただいて、全世界的にはかなり広まっているのだと感じています。ゆくゆくは患者満足度に代わって、PX値がスタンダードになっていくのではないでしょうか。

初期段階の取り組みに参加させていただいているのを光栄に思っていますし、これから起こるであろう大きな動きにワクワクしています。

 

☆わたしのPX体験(自院での取り組み、患者としての経験など)

2016年の冬に初めて自院でPXサーベイを実施しました。項目数の多さや、欧米との文化の違いにとまどいつつ、手探りで翻訳したサーベイシートを使っての調査です。その後、2017年にも同内容で実施。病院の新築移転を経て、現在進行形で2018年のサーベイを行っています。

研究会の活動の中で、サーベイシートは日本の病院文化に沿う内容になり、項目数も削ってブラッシュアップされました。今後はサーベイ結果から改善活動へとどうつなげていくのか、PX値の推移を見ながらのサービスの質向上を自院の課題としています。

 

☆ PXを学ぶ前後で変わった点

病院の中のさまざまな場面で、「患者さんの視点に立つ」ということを意識するようになりました。個々を認めて尊重できる、そんなサービスが自然とできる病院になりたいです。

 

☆PXにかかわって良かったこと・得したこと

普通にしていたら絶対に知り合うことのなかったさまざまな人との出会いです。私は特に管理部門の事務職なので、学会や地域のカンファレンスに参加することもありません。自分の病院以外の人と交流するなんて考えられませんでした。規模も職種も地域も業態も異なり、年齢や立場も幅広いです。個性強めのメンバーとの活動は刺激的で、持ち帰ることがたくさんある最高の学びの場になっています。

 

PXとは?

患者サービスを数値化(見える化)するもの。

 

☆自己紹介:

前橋赤十字病院の総務課広報広聴係主任として病院広報を担当しています。病院のイメージアップのために、魅力的でスマートな情報発信を心掛けています。

 

3. 今後の予定


新春に次回勉強会を予定しています。サーベイ結果をどう改善につなげるかなど、2019年のトピックとなりそうなテーマの話も予定しています。勉強会は研究会員以外の方も参加可能です。

 

第25回 PX研究会 勉強会

1月19日(土)13:30-15:30

場所:株式会社イトーキ SYNQA 2F

「PX概論」
「PXサーベイの結果を医療サービスの改善につなげる」
「働く環境から考えるPCD(Patient Centered Design)とは」(予定)

会費:勉強会参加費 1000円(研究会員は無料)

 

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

編集部から


先日フルマラソンに初挑戦しました。30キロ過ぎから足が動かず大変でしたが、なんとか最後まで走り切ることができました。タイムも目標としていた4時間を切ることができ、大満足です。楽しかったのでまた挑戦したと思います。3時間半を切れたら良いなあ。(K)