日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.137

1.COVID-19でPXを見直す?
2.クリーブランド・クリニックの「The Office of Patient Experience」
3. 今後の予定

1.COVID-19でPXを見直す?


1月6日の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者は日本国内で6000人を超えるなど、感染拡大が懸念されています。収束の見通しが立たない状況ですが、2021年はコロナ禍におけるPX(Patient eXperience;患者経験価値)の意味、役割を考える年となりそうです。

 

COVID-19の感染が広がり、連日5万人超の感染者を出している英国では医療現場のひっ迫により、「NHS(National Health Service;国民保健サービス)が提供する Friends and Family Test(FFT)*が不要、不適切とみなされる可能性がある」という現場からの指摘があります。NHSグループのNorthernCare Alliance(マンチェスター地域で5つの病院・関連コミュニティを運営) の「Patient and service user experience」の責任者であるJoanne McAllisterさんが看護系雑誌「Nursing Times」に寄稿した内容を紹介します。

Joanneさんは、「病棟がで満床かつ患者が重症な時に、患者がどんなサービスを受けたいかを気にする余裕はない」と指摘したうえで、パンデミックだからこそPXの意味することを考えるべきだと強く訴えます。

COVID-19は患者が家族、身近な友人などのサポートを受けられない場合に、これまで医療者が遭遇したことがない課題をもたらし、PXに影響を与えているといいます。そしてPXとCS(Customer Satisfaction;顧客満足度)が同等という従来の考え方は変わるかもしれないと指摘します。

ヘルスケアにおけるエクスペリエンス、PXは個人的な期待、認識、相互作用に基づいています。パンデミック下において、医療者はPXを担保することは不可能だと感じるかもしれませんが、すべての行為を注意深く、思いやりと敬意をもって扱うことで達成できるといいます。思いやりのある治療、敬意は質の高いPXを提供するための基本で、それにより医療機関側の事情による予約のキャンセル、待ち時間の長さなどは許容されます。「NHSスタッフは思いやりのあるケアを提供してきました。患者の心をつむぎ、絶望のなかで希望を示すという終末期ケアがニューノーマルとなっています。パンデミック下でのイノベーションがNHSのケアの見直し、よりパーソナライズされたPXを提供することにつながることを願っています」とJoanneさんは話しています。

寄稿の詳細は下記リンクをご一読ください。

 

*FFT:患者が提供された医療サービスに満足しているか、どこで改善が必要なのかを把握するために作成され、2013年から開始しています。NHSの治療を受けた患者が匿名で医療機関を評価し、その結果はスコア化・公表されています。

 

Link:https://www.nursingtimes.net/opinion/covid-19-has-made-us-redefine-the-good-patient-experience-05-10-2020/

 

 

2. クリーブランド・クリニックの「The Office of Patient Experience」


PXを知っている方にはおなじみの米オハイオ州にあるクリーブランド・クリニック。さまざまな視点からPXを推進する「The Office of Patient Experience」という部署があります。PXを高めるためのさまざまなプログラム・サービスを提供しており、その主なものを紹介します。個々のプログラムは日本の医療機関でも取り入れやすいので、自院の取り組みの参考にしていただければと思います。

 

☆The Association for Patient Experience (AfPE)

医療の専門家、患者、患者家族をサポートするために設立した非営利組織で、クリーブランド・クリニックがサポートしています。PX向上と患者中心の医療を提供するために取り組んでいて、発刊する雑誌「Journal of Patient Experience」の編集長は、Chief Experience Officerの Adrienne Boissyさんが務め、PX教育やPX向上のための情報、ピアレビューを載せています。

☆PXのベストプラクティス

PXを踏まえた治療やケアにより最適な結果へと導くため、ベストプラクティスチームを編成。多くの医療機関や部門と連携したうえで、▽患者が処方薬を理解するためのコミュニケーション、▽病棟で夜間の騒音を低減するためのガイドライン作成、▽患者の安心、看護師の業務効率を図るための1時間ごとのラウンド、▽患者が抱える問題、ニーズを収集するためのチームラウンド、▽PXを高める看護をロールモデル化するための看護師リーダーによるラウンド、▽患者ケアにかかわる全スタッフが患者のニーズに対応、解決せず見過ごさないためのプログラムーーなどを実施しています。

☆PXを高めるためのEX

EX(Employee eXperience;従業員経験価値)とPXをつなげるため、2010年に「クリーブランド・クリニック・エクスペリエンス」を導入しました。患者を最優先するという使命を果たすスタッフづくりの基盤として、入職者のオリエンテーション、業績管理プロセスに不可欠なものとして位置づけられています。

☆オンブズマンオフィス

患者がケア提供者との間に発生した問題が解決できない場合に連絡を受け、クレーム対応を行っています。治療、ケアの質への懸念、スタッフの対応、外来・入院時のサービスへの不満を電話、メールなどで受け付けます。受けた内容は管理者に伝わり、医師や部門の年次レビューに反映され、変更・改善に活用されます。

 

そのほかの取り組みは下記リンクから確認できます。

Link:https://my.clevelandclinic.org/departments/patient-experience/depts/office-patient-experience/programs

 

 

3. 今後の予定


2021年も引き続き、PXを学べるオンライン勉強会「PX寺子屋」を開催します。現在、2月13日、5月15日、8月21日、11月13日のいずれも13:00~14:00の開催を予定しています。内容など詳細につきましては決まり次第、当メールマガジンとホームページでお知らせします。

 

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第3期PXE養成講座は2021年7月からスタートします。PX研究会ホームページで受講生の募集を始めました。概要と申し込みは下記リンクからお願いします。

Link:https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

 

編集部から


年末年始はゆっくり過ごされましたか? 私は1月1日の朝は腹痛で目が覚め、大量の血尿で2021年がスタート。始め悪ければ後は良くなるだけ……と信じ、いい1年にしたいです。今年もPX研究会をよろしくお願いいたします。冬の猫はもふもふで、かわいさ倍増です。(F)