日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.161

1.クリーブランドクリニックのPX
2.デジタルヘルスとPX
3. 今後の予定

1.クリーブランドクリニックのPX


米国でPX(Patient eXperience;患者経験価値)のメッカとなっているオハイオ州のクリーブランドクリニック。当メールマガジンでもこれまで年1回の“聖地巡礼”(PXサミット)や患者ストーリーなど、同院のPXに関する取り組みを紹介してきました。今回は、医療の質向上と情報に基づいた意思決定を行うためのアウトカム指標として、PXがどう位置づけられているかにスポットを当てます。

 

クリーブランドクリニックは医療システムとして、トリプルエイム(3つの目標)を打ち立てています。地域住民全体の健康の改善、一人あたりの医療費の削減、そしてPXの改善(質と満足度)です。そこで目標達成に向けて、「患者第一」にフォーカスを当てた新しいケアモデルを開発、実装しました。

このケアモデルは、全米医学アカデミー(旧・米国医学研究所)が医療提供のゴールとしている安全性、タイムリー、効果的、効率的、公平、患者中心のケアを実現することを目的としたものです。サービス別料金(出来高払い)から地域における慢性疾患のリスクを低減する健康管理(Population Health)、包括払いへと移行するにつれ、同院では患者の安全性、アウトカム、エクスペリエンスを同時に改善していくことにフォーカスしています。

Population HealthではACO(Accountable Care Organization;メディケアの患者に対して質のよいケア・サービスを提供するために自発的に組織された病院、医師などケア提供者のグループ)による評価はモニタリングと改善のために優先順位が高くなっています。また、ケアの調整力を強化し、テクノロジーと情報システムを最適化、プライマリケアの専門チームを改善に直接かかわらせることにより、パフォーマンス改善につなげています。これらは人々の健康とケアをより手ごろな価格設定にするための変革で、同院の全体的な戦略の一部です。

 

質と満足度を測る指標としては死亡率のほか中心静脈カテーテル関連血流感染症、尿路感染症、抗菌薬使用関連感染症(CDI)など標準化感染比、転倒率、院内感染関連などがあります。また、PXの評価としてはHCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems)のPXサーベイ結果を経年で追っています。

同院が掲げる患者第一とは、PS(Patient Satisfaction;患者満足度)と高いバリューという観点での安全なケア、質の高いケアです。ケア提供者は臨床的、身体的、感情的なエクスペリエンス(経験)を含む、患者のジャーニーのあらゆるタッチポイントに影響を与える力があると指摘。そしてPXが、PS調査をはるかに超えた重要なものであると認識しています。調査結果をケア提供者や一般の人々と共有することが、卓越したケアを提供する方法を見つけ、改善する機会になると考えています。

 

同院のPX関連データなど、詳細は下記リンクからご確認ください。

Link:https://my.clevelandclinic.org/departments/patient-experience/depts/quality-patient-safety/treatment-outcomes/913-outcomes-summary

 

 

2. デジタルヘルスとPX


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、従来の医療提供のあり方が問われています。日本でも将来的にはオンライン診療システムや、診療アプリなどがごく当たり前に使われるようになることが予想されます。すでに米国ではデジタルツールを活用した遠隔医療が標準となっている一方で、デジタルデバイド(情報格差)が問題視されています。デジタルヘルスとPX、受診機会の公平さについて考察した、米イリノイ州のStericycle Communication Solutions社のシニア・バイス・プレジデントのMatt Dicksonさんの寄稿を紹介します。

 

COVID-19のパンデミックでは、医療システムを再構築する必要性を引き起こしました。多くの人は初めてさまざまな仮想ツールを使って医療機関とのスケジュール調整を行い、PXおよび人々が好む医療チームとのかかわり方についても再定義しています。

遠隔医療は、医療とPXとの関係を作り直すうえで重要な役割を果たしてきました。COVID-19による移動の制限や規制は患者の医療へのアクセスに混乱をきたしました。定期的な受診ができないことによってケアプロセスの合理化と、より多くの患者に手が届き、ソーシャルディスタンスを促進する方法をデジタル化する必要性が強調されています。患者は自宅を離れることなく、オンデマンドで医療を受けることができるようになるなど、パンデミックで生じた現実とのギャップを埋めるのに貢献しています。

マッキンゼー・アンド・カンパニー社の遠隔医療に関するレポートによると、遠隔医療を利用した患者は2020年で35%増加しています。

Link:https://www.mckinsey.com/industries/healthcare-systems-and-services/our-insights/telehealth-a-quarter-trillion-dollar-post-covid-19-reality#

 

昨年デジタルヘルスによってPX向上を促進するのに役立ったものとして、リマインダー機能、オンライン予約、予防医療、患者教育のニーズを満たすプラットフォームの提供があります。ただ、遠隔医療はすべての人に公平な医療を提供するうえではまだ限界があるため、万能ではありません。デジタルヘルスにアクセスできない人に対し、医療提供者は遠隔医療の代わりに電話やテキストメッセージなどのローテクな方法を使うことで医療サービスを提供することができます。

チャーティスグループとキセラ研究所の調査報告では、都市部での遠隔医療の利用は農村部より28%高くなっています。

Link:https://reports.chartis.com/telehealth_trends_and_implications-2021/

 

また、遠隔医療によって英語が話せない患者からの診療予約が減少しました。予約のリマインダーに書かれていた英語を十分理解していないため、COVID-19との接触を恐れるあまり、返信して予約をキャンセルしている可能性が高いことがわかりました。デジタルヘルスにおいて多言語サービスを含めたソリューションの採用により、医療システムは公平なデジタルヘルスをつくる道のりに大きなはずみをつけることができます。

 

Link:https://www.forbes.com/sites/forbestechcouncil/2021/07/13/digital-health-equity-and-how-to-achieve-it-in-a-post-pandemic-world/?sh=75aefd6f346d

 

 

3. 今後の予定


第5回寺子屋を8月21日(土)に開催します。日本における“PX推進ホスピタル“、国立病院機構九州医療センターの2020年度の取り組みを報告します!

 

第5回PX寺子屋

・日時:2021年8月21日(土)13:00-14:00

・テーマ:「PX概論」 訪問看護ステーションアクティホーム 事業責任者 講内源太

「九州医療センター2020年度PXサーベイ実践報告」 国立病院機構九州医療センター 小児外科医長 西本祐子

https://www.pxj.or.jp/events/

 

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PX研究会では「第4回PXフォーラム 変革から成熟へーWithコロナ時代のPXがもたらすものー」を12月4日に開催します。COVID-19の影響により、今年はオンラインのみでの開催です。PX研究会会員(法人・個人)は無料。会員外の方は第1・2部で3000円となります。第1部、第2部のみ(各1500円)参加も可能です。フォーラムの詳細と申し込みは下記リンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxforum2021/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


一昨日はコロナワクチン接種の1回目でした。初訪問の近所のクリニックでしたが、某検索エンジンでの評判は「院長が怖い、冷徹」といったネガティブなものばかり。実際は素敵な女性(緊張をほぐすように話かけ、気をそらしてくれて接種に気づかないまま終了)でした。医療機関の口コミは選択するうえで大事だと思っていましたが、ネットの書き込みより自分が見たもの、聞いたものを信じることの大切さを再認識。副反応による熱が下がりませんが、「身体がコロナと闘う気満々!」とポジティブに捉えています。(F)