日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.164

1.PXを高める「OpenNotes」
2.CLE×HIMSSフォーラム
3. 今後の予定

1.PXを高める「OpenNotes」


患者が自分自身の医療に主体的にかかわり、疾患や治療法について理解することがPX(Patient eXperience;患者経験価値)につながる――。患者がオンライン上で自分の診療録(カルテ)にアクセスし、読むことができる「OpenNotes」をPXを高めるツールとし、書き方をアドバイスしている米国のヘルスケアメディアの記事を紹介します。

 

「OpenNotes」は2010年に、ハーバード大学医学部とベズ・イスラエル・デアコネス・メディカルセンターなどの医療関係者が始めたプロジェクトです。105人のプライマリ・ケア医が2万人の患者に対し、自分のカルテを閲覧してもらうところからスタートしました。2020年には米国とカナダで5000万人以上が自分のカルテにアクセスできるようになっています。

「OpenNotes」では「医療情報は患者のものである」という考えのもと、診断名や経過記録などを含めた診療録を患者に公開しています。さらに、カルテを共有することで、患者とその家族、臨床医間のコミュニケーションにもたらす効果についての研究を行っています。

約30年前から臨床カルテの共有を始めた、ベズ・イスラエル・デアコネス・メディカルセンターとハーバード大学のメンタルヘルスの専門家で生命倫理学者のStephen O’Neillさんは「私たちが何も隠していないと患者と彼らの親しい人たちが感じることはとても有益であるとわかりました。そして折に触れて、家族や患者にメモの草稿を見せ、自分が彼らの考え方を正確に捉えられているかを確認していました」と話します。

 

臨床カルテをオープンにする利点は、次の5つです。

1.患者のエンパワーメントとエンゲージメントの改善

2.患者の安全、医療過誤の発見と修正の改善

3.患者教育の改善

4.慢性疾患の管理の改善

5.服薬アドヒアランスの改善

患者が臨床カルテをみると、治療により積極的にかかわることがわかっています。カルテの開示を行った臨床医の50%は患者が自身をよりよくケアしたこと、約75%は患者のエンパワーメントが改善したと述べています。また、患者の64%が臨床医が特定の薬を処方した理由を理解するのに役立ち、62%は服薬管理の必要性を強く感じました。57%は処方薬についての疑問に対する答えをカルテによって見つけることができ、医師に聞かずに済んだと答えました。

 

2021年4月、米国のすべての医療システムは臨床医の記録をオンライン上で無料で、患者と共有することが義務付けられました。これは厄介な問題を引き起こす可能性があり、患者にプラスとなるPXのために、よいカルテを書く方法を学ぶ緊急性が高まっています。

ベズ・イスラエル・デアコネス・メディカルセンターの医師で、ハーバード大学の助教授であるLeonor Fernandezさんによると、優れた臨床カルテを書くことは、臨床文書のなかでもっともやっかいというわけではないと指摘します。しかし少し巧妙さが要るかもしれません。

これまで患者とカルテを共有したことがない医師は、患者が理解できるように書き方を整える、患者と少し話し合う必要があります。言葉遣いは重要であり、患者に不快感を与える可能性のある特定な言い回しやフレーズがあることがわかっています。「正しくない」「肥満」「間違っている」「不安」「落ち込んでいる」「不確か」「高齢者」などです。これらは話し方を含めて、何らかのかたちで却下された、軽蔑された、誤解されたといった負の感情をもたらします。

特に、主観的な痛みに関して否定されると、慢性的な痛みなどにずっと苦しんでいる患者は腹立たしくなります。全体的に、診療の間に話し合われなかった診断、見下すような言い回し、否定的にラベル付けをした言葉が書かれているカルテは読みたがらない傾向がありました。これらは医療機関に対する患者の信頼が低い、疎外感を持っている人々に特に当てはまりました。臨床カルテの共有で重要なのは協同と透明性という考えです。また、患者が客観的な臨床供述に同意しない場合は、患者の声を聞くことが重要だと言います。

身体的なものではなく、問題行動分野やPTSDついてはカルテ共有の難しさを指摘したうえで、Stephenさんは「患者の幸せのための最善策について、深く、直接会話することが必要です。彼らがどのタイミングでカルテを読むことがいいのか、動揺したり不安になったりする可能性があることを理解し、確認する必要もあります」とアドバイスします。

 

よい臨床カルテの主な特徴として次の5つを挙げています。

1.より客観的、臨床的な言い回しをするために軽蔑の表現を直す

2.誤解される可能性のある言葉を直す

3.行動上の健康機会の要件を理解する

4.青年期の患者の臨床カルテの親プロシキを評価する

5.共感と患者中心性の考えをもって臨床カルテに取りかかる

 

記事の詳細は下記リンクをご一読ください。

Link:https://patientengagementhit.com/features/how-to-write-open-clinical-notes-for-a-good-patient-experience

OpenNotes

Link:https://www.opennotes.org/

 

 

2. CLE×HIMSSフォーラム


米国オハイオ州のクリーブランド(CLE)クリニックとHIMSS(the Healthcare Information and Management System Society) との共催による「Patient Experience & Consumerization Forum」が8月9〜13日、米ネバダ州ラスベガスで開催中です。ヘルスケアソーシャルメディアコミュニティの1つ、#hcldr(ヘルスケアリーダーシップ)tweetchatの共同創設者あるColin Hungさんの速報レポートでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下では、PXが必ずしも優先されているわけではないという事実が伝えられています。

 

同イベントではCOVID-19によりPX、共感的なケアが対面と仮想の両方において、新しい課題をどのように克服したかを聞くことができます。また、パンデミックの際に人と人とのつながりをどのように維持したかについて話し合うといった趣旨で開催しています。ヘルスケアのコンシューマライゼーション、つまりバーチャルケア、クリニック、在宅医療など、便利で手頃な価格のケアへのアクセスに対する患者の需要をこれまで以上に深く掘り下げるとしています。

イベントでの主なトピック

・COVID-19でPXを推進するイノベーション

・COVID-19をナビゲートし続ける際に、患者と消費者を引き付けるための戦略

・テクノロジーを活用してPXとその関与を促進する

・健康格差や偏見などの重要なトピックと、それらがPXに与える影響に対応する

 

フォーラムのオープニングのパネルディスカッションでは、パネリストはPXに関する研究と統計を引用し、PXと臨床アウトカムについて関連性があると指摘しました。パネリストとして参加したColinさんは、「COVID-19が明らかになる一方、オンライン診療を続けることとPXの重要性をどう調和させるか」と投げかけ、議論になりました。プライマリ・ケア医のTania Elliottさんは、「パンデミックの初期に非訪問の方針が採用されたが、患者の心配ごとに真剣に耳を傾け、患者と家族の諮問委員会(PFAC)と協議し続けるといった対応によって、より受け入れやすくアプローチを変更しました」と話しました。バーチャルでの訪問にはiPad と FaceTimeなどが使われたといいます。

Colinさんは、フォーラムのなかで強く心に訴えかけられた2つのことを挙げています。

1つは、クリーブランドクリニックのCEO(Chief Experience Officer)であるAdrienne Boissyさんが、医療機関で実施されるPXサーベイに内在するバイアスについて強調したことです。サーベイの回答者のほとんどが65歳以上の白人、大学教育を受けた人々であるという事実です。もう1つは、ConsejoSanoの創設者兼CEOであるAbner Masonさんが、SDOH(Social determinants of health;健康の社会的決定要因)の影響、特に低所得の家族がコロナ禍においても多くの医療からどのように排除されたかについて話したことだと言います。

 

海外において、人種や経済的理由による医療、健康格差はPXを語るうえで大きなトピックとなっているのが日本との違いです。

Link:https://www.healthcareittoday.com/2021/08/10/himss21-day-1-patient-experience-is-important-but-is-it-a-priority/

フォーラムの各セッションなどは、下記リンクから確認できます。

Link:https://www.himss.org/global-conference/program-patient-experience-consumerization-forum

 

 

3. 今後の予定


第5回寺子屋を8月21日(土)に開催します。日本における“PX推進ホスピタル“、国立病院機構九州医療センターの2020年度の取り組みを報告します!

 

第5回PX寺子屋

・日時:2021年8月21日(土)13:00-14:00

・テーマ:「PX概論」 訪問看護ステーションアクティホーム 事業責任者 講内源太

「九州医療センター2020年度PXサーベイ実践報告」 国立病院機構九州医療センター 小児外科医長 西本祐子

https://www.pxj.or.jp/events/

 

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PX研究会では「第4回PXフォーラム 変革から成熟へーWithコロナ時代のPXがもたらすものー」を12月4日に開催します。COVID-19の影響により、今年はオンラインのみでの開催です。PX研究会会員(法人・個人)は無料。会員外の方は第1・2部で3000円となります。第1部、第2部のみ(各1500円)参加も可能です。フォーラムの詳細と申し込みは下記リンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxforum2021/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


近所のワインバーに行きました。ノンアルコール、午後8時までの営業なので常連客しか来ないとのこと。夏感が満載のスイカ味のカクテルを飲みながら、1日も早くコロナが収束することを願いました。(F)