日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.181

1.PXが医療業界を変える?
2.PX向上はなぜ難しい?
3. 今後の予定

1.PXが医療業界を変える?


ヘルスケアにおけるCX(Customer eXperience;顧客経験価値)、つまりPXはまだ改善の余地があり、新しいイノベーションやビジネスを生み出すチャンスである――。CX向上に取り組む企業リーダーによるグローバルコミュニティサイト「Customer Think」の投稿記事の概要を紹介します。

 

Salesforce社の調査によると、47%以上の消費者がヘルスケアやライフサイエンスは患者のニーズよりも業界のニーズを重視していると回答。また、PwC社の調査では、ヘルスケアのCXに満足できると答えた消費者は49%に過ぎません。保険会社や製薬会社など、ヘルスケア関連の組織は顧客中心主義的でないと認識されています。それによってApple、 Amazon、 Google、UberなどのCXに長けたテクノロジー産業により、ヘルスケア分野が破壊されつつあり、これらの企業から学ぶべきことがたくさんあります。

患者を貧しく大人しいと考えるのではなく、力を持っていて批判的、技術にも精通した消費者と捉え、完璧なエクスペリエンスで魅了する必要を指摘。そのために重要なことは、病気に伴う痛み、心配、恐怖といったネガティブな感情から脱却し、疾病管理というよりも健康を守ること、well-beingと健康な生活を促進する取り組みを始めている保険会社もあります。

 

医療関係者が医療界で生き残るためにPX向上させるには、▽軋轢をなくす、▽プラットフォームとエコシステムへの集中、▽ハイパー・パーソナライゼーション――の3つに注目します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は医療分野における最大のデジタル化の試みとなりました。移動時間や待ち時間をなくす遠隔医療が盛んになり始めただけでなく、病気そのものの軋轢をなくす健康追跡やデータ測定の新しいソリューションが数多く登場しています。予約やチェックインを簡単にする、待ち時間を減らす、医師の診察を受けずに検査結果を得る、24時間365日健康情報などにアクセスできるといったものです。

例えば、ハーバード大学の関連病院ではBuoy Healthのチャットボットにより、患者の診断と治療をより迅速に行なっています。ジョンズ・ホプキンズ病院はGEとの提携により、AI技術を利用して患者に関する業務フローを効率化しました。その結果、患者の入院が60%、正午前の退院が21%増え、迅速かつポジティブなPXを得られるようになりました。

テクノロージーがペイシェントジャーニーをよりスムーズで軋轢のないものにする方法はたくさんありますが、最大の効果は医療従事者が退屈かつ反復的な作業から解放され、患者ケアに集中できるようになることです。そして、EX(Employee eXperience;従業員経験価値)も向上させることも重要です。医療の最前線で働く人自身が幸せでなければ、過大なストレスを抱えている患者を幸せにするのは難しいということです。

 

医療においてPX向上を阻害する最大の要因の1つは、患者の全体像が見えてこないことがあります。医師によって患者の健康に関するデータが異なるなど、医療従事者だけでなく患者も自分の健康に関するあらゆる情報を一元的に把握する必要があります。ヘルスケアではヘルステック供給者など他の業界と連携することが必要で、あらゆるところで起こっています。

 

PX向上にはエクスペリエンスを個人的なものにし、病気になることがないほど患者のことをよく知る必要があります。ハイパー・パーソナライゼーションの重要な方法の1つはDNAの分析です。オーストラリアではDNAfitがゲノム医療によってパーソナライズしたワークアウトと栄養に関するアドバイスをアプリで提供しています。AppleではHealthkitを使い、アプリと連携することで価値のある健康に関する見識をユーザーに提供しています。

 

記事ではそのほかにも具体的な企業の取り組みなどが紹介されています。下記リンクから読むことができます。

Link:https://customerthink.com/how-customer-experience-is-changing-the-healthcare-industry/

 

 

2. PX向上はなぜ難しい?


アメリカの医療機関はPX改善のために時間、資金、リソースに多大な投資を行っているのに、全米のHCAHPSの総合評価は2016年以降改善されていません。医療機関は優れた診療を提供できるのに、素晴らしいPXを提供できないのはなぜなのでしょうか。米のPX推進団体「Beryl Institute」のブログに掲載されている、PatientVoicesのCEOであるMary Kay O’Connorさんの興味深い投稿記事を紹介します。

 

従来、PXはHCAHPSの調査票の評価によって定義されてきましたが、PXは複雑なものです。PXを向上させるには患者が何を体験しているかを理解する必要があります。

患者は診療のどのようなところを評価しているか、何が不満なのか、何が原因で受診する医療機関を変えたのか――。患者さんは一人ひとり違います。また、医療機関での過去の経験、待ち時間、医療提供者の傾聴スキル、退院後のフォローアップの理解度など、PXに影響を与えるものは数え上げるときりがありません。

これらの解決策はシンプルなもので、患者に自分のストーリーを語ってもらうだけです。自分の体験を話してもらい、その後に自身の体験をどう評価しているかを聞くことで、PX改善に必要なことをすべて教えてもらうことができます。患者の知恵を結集することで、PXや医療機関の評価に何がマイナスの影響を与えているのかがわかり、改善の優先順位がはっきりします。次世代のAIテクノロジーは患者の話を、アクションにつながる優先順位に簡単に変換することができます。

 

患者アンケートは医療機関のベンチマークとして重要な役割を果たしますが、PXを適切に表現することはできません。患者にとって最も重要なのは、どのような体験であるかということです。患者からのフィードバックは肯定的なものも否定的なものも含めて共有します。問題の解決に携わる診療医にフィードバックすることが重要です。患者の体験談を理解することで、PX向上に向けた解決の一端を担おうという意欲がわいてくるのです。

 

PXサーベイの実施だけでなく、患者の個別性を理解し、患者の声に耳を傾けることがPX向上につながるという指摘でした。次世代AIテクノロジーに期待です。全文は下記リンクからご一読ください。

 

Link:https://www.theberylinstitute.org/blogpost/947424/390856/Why-Is-Improving-Patient-Experiences-So-Difficult

 

 

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では、来年もオンライン勉強会「PX寺子屋」などを開催していきます。日程や内容などは決まり次第、メールマガジンやホームページでお知らせします。

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


姪たちと水族館に行き、きれいな魚をみてきました。すぐにこの美しい世界にエントリーできた奄美大島での生活が懐かしいです。(F)