日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.188

1.PXとPSの違い

2.患者アドボカシーデータ
3. 今後の予定

1.PXとPSの違い


PX(Patient eXperience;患者経験価値)を理解する際に難しいのは、PS(Patient Satisfaction;患者満足度)との違いです。日本の多くの病院で実施している「患者満足度調査」に替わるPX調査(サーベイ)はPSを否定するものではなく、むしろPSを高めることを目指しています。PXとPSの違いについて論じている、ヘルスケアB2Bメディア企業・Xtelligent Healthcare Mediaの記事をは、2つの概念について改めて考えさせられる内容です。

 

「PXとPSは同義語として使われることが多すぎる医療用語ですが、医療の専門家からするとまったく異なる意味を持っています」と編集長のSara Heathさんは指摘します。「PXとPSの違いは、医療の質向上に影響を及ぼします。医療の専門家が2つの概念の違いを理解し、自らの仕事で適切に使うことが重要。そうすることで患者中心のケアが促進され、PXやPSの追求がより明確になります」

 

米国の政府機関などは、PXの定義づけを行っています。AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality;米国医療研究品質局)は「PXは、医療保険制度や、病院、診療所、その他の医療施設における医師、看護師、スタッフからのケアを含め、患者があらゆるヘルスケアシステムと接する範囲をひとくくりにしています。医療の質に不可欠な要素として、PXにはタイムリーな予約、情報の入手しやすさ、医療提供者との良好なコミュニケーションなど、患者さんが医療を受ける際に高く評価するいくつかの側面が含まれます」と説明します。

PXの改善の推進団体Beryl Instituteは、「組織文化によって形成され、一連のケアの中で患者の認識に影響を与えるすべての相互作用」としています。PXはコミュニケーションから安全性、療養環境まで、医療システムのさまざまな側面をみて、それらが質の高い医療を描き出しているかどうかを判断することがPXにつながるのではないかと考察しています。

 

米国のPXサーベイ、CAHPSについてAHRQは「ケアに対する満足度を尋ねるものではなく、患者にとって重要であり患者が最良の、時には唯一の情報源となるエクスペリエンスの側面について報告してもらうものです」と説明します。「この調査は、大規模な回答者サンプルに対して一貫した手法で十分にテストされた質問を行うため、医療提供者や消費者などが信頼できる、標準化、検証されたPXの尺度を生み出すことができます」。

AHRQはPSについても言及しており、「患者が自身のケアとの出会いのなかで期待するもの」しています。言い換えれば、PSは主観的な医療の指標です。「2人の患者がまったく同じケアを受けても主観的な期待が異なるため、満足度が異なることがある」と述べています。

例えば、患者に自分の健康記録にアクセスできたかどうかを尋ねることは、PXの指標になります。患者データへのアクセスは、客観的な品質指標だからです。PSは、患者が部屋のレイアウトに満足しているかどうかを判断するといったことでしょう。PSは、医療分野ではあまり正式な指標や概念とはいえません。WEB検索してみると、医療の質の基準としてPSを用いている政府機関や真摯な専門家集団は、はるかに少ないことがわかります。この事実はPSの重要性を否定するものではありませんが、医療界がPX尺度を品質向上に利用していることを示しています。

 

一方で、医療業界は消費者中心になっており、特に、患者が保険外で医療費を自己負担するようになっています。医療機関のリーダーは、市場シェアを維持・拡大するために、エクスペリエンスだけでなく、PSを高めることを追求します。「消費者がより多くの選択肢を持ち、医療に関する意思決定が自分の財布に影響を与えるようになると、消費者は医療における体験を、生活の他の側面で培った期待と比較するようになります」と、バナーヘルス社の消費者体験センター副社長のDave Kriesandさんは以前のインタビューで語っています。

医療の質は、常に食事の質やその他の病院のアメニティに優先します。もし患者が適切なケアを受けられなかったり、病院での有害な出来事を経験したりすれば、病院の特典に関係なく、患者は満足しないでしょう。しかし、PSの重要性はますます高まっており、医療機関はそのことを忘れてはなりません。

 

Press Ganey社のエグゼクティブ・ディレクター兼リサーチ&アナリティクス担当上級副社長のDeirdre Mylodさんによれば、最終的には、質の高いケアとの出会いを提供することが、高いPSを得ることにつながるので、PSとPXは密接に関係しているのかもしれません。

PXを促進するうえで、医療機関はPSの要素にも目を向ける必要があります。患者が好きなテレビ番組を見ていることを確認すれば、リモコンに手を伸ばす回数が減り、転倒や怪我を防ぐことができる可能性があります。逆に、患者とケアチームのメンバーとの間の明確なコミュニケーションは、患者がより安全だと感じることでPSを向上できる品質指標であることは間違いありません。

Sara さんは、「PSとPXの定義は実に密接に関連しており、場合によっては共依存しています。しかし、PSとPXの両方を同じように使うと、患者中心のケアへの取り組みが不正確になる可能性があります。ケア改善の取り組みをより良いものにするためには、これらの用語を適切に使用することが重要」と話しています。

 

Link:https://patientengagementhit.com/news/what-is-different-between-patient-experience-satisfaction

 

 

2. 患者アドボカシーデータ


Beryl Instituteではこのほど、「患者アドボカシー(擁護・代弁)データ~患者からのフィードバックに隠された宝石を発見する~」を発刊しました。

この論文は、Beryl Instituteの関連団体である患者アドボカシー協議会と共同で執筆されたものです。PXを改善するために、患者アドボカシーデータ(苦情やクレーム)がどのように活用されているかを検証しています。米国とオーストラリアの患者支援者へのインタビューを通じて、このデータを他の安全・品質・PXデータと統合することによって、より効果的に活用し、システム改革やプロセス改善を行うことができる可能性が明らかになりました。

専門職として患者アドボカシーの変革におけるリーダーシップの説明責任を改善するほか、患者アドボケートの役割を高め、彼らのケアを受ける人々のエクスペリエンスを改善するためにも収集データに大きな価値を与えることの重要性を呼びかけた内容となっています。医療現場で患者の声を聞き、改善につなげていくためのヒントとなります。下記リンクから29.95ドルで購入可能です。

 

Link:https://www.theberylinstitute.org/store/viewproduct.aspx?id=19708530

 

 

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では、3月5日(土)12:30-13:30、オンライン勉強会「第8回PX寺子屋」を開催します。

テーマは以下になります。HCD(Human Centered Design;人間中心設計)とはユーザーの視点に立った設計を行うことで、ものづくりに欠かせない視点です。PXに取り組むうえで幅が広がる知識を得られる機会です。一般1000円、会員は無料となります。ぜひご参加ください!

 

「PX概論」      医療法人社団 松井病院看護部長 菊池明美

「PXとHCDの親和性」 神奈川大学 経営学部准教授博士(情報学)/HCD-Net理事/ 認定人間中心設計専門家 飯塚 重善

https://www.pxj.or.jp/events/

 

 

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PX研究会では医療機関や企業でPXを広めるエバンジェリストとして、PXE(Patient eXperience Expert)の認定を行なっています。現在、2022年度の第4期生の募集を開始しています。PXについて体系的に学べます。多くの方のエントリーをお待ちしています。詳細と申し込みはリンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


東京都現代美術館で開催中の「クリスチャン・マークレー」の展覧会は、「視覚と聴覚のエクスペリエンスの等価性を追求する」というコンセプトでしたが、本当に、絵を見ているうちに音が聴こえてきました!(F)