日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.191

1.PXとインシデント
2.CXに代わる「BX」とは?
3. 今後の予定

1.PXとインシデント


PX(Patient eXperience;患者経験価値)向上によるエビデンスとして、平均在院日数、投薬ミスの減少といった医療の質改善が指摘されています。医療の安全性、インシデントとPXとの関連について紹介する、米テネシー州のマルチプラットフォームメディアである「HealthLeaders」の記事を紹介します。

 

患者視点を考慮することにより、医療の安全性と質向上の取り組みにさらなる価値が生まれる――。

PXは患者中心のケアに留まらず、インシデント対応と質改善においても重要な要素です。米イリノイ州にある非営利団体Project Patient CareのPat Merryweather-Argesさんは「PXを定義するときに最も重要なのは患者の視点です。PXを生み出すのは1対1の出会いであり、PXをより幅広く理解するためのサンプリングツール、もしくは調査ツールが必要かもしれません」と話します。

Patさんはインシデントが発生した際に、PXが重要な役割を果たす可能性についても指摘します。「PXは患者が被害を受けた際のエクスペリエンスになります。なぜなら患者は診断を見逃した、何も聞いていなかった、もしくはほかの要因があったといった指摘ができるからです」

 

「インシデントが発生した場合、PXはケアチームやその他の医療関係者のモチベーションを高めることができます」と話すのは、医療に関する品質管理の資格認定を行うNational Association of Healthcare QualityのCEO兼エグゼクティブディレクターであるStephanie Mercadoさん。「PXを取り入れることで安全管理を、人間味のあるものにすることができます。プロセスに焦点を当て、どうやって改善できるかといったことにも非常にストレートにアプローチします。重大な医療ミスで患者の視点を持ち込むことは感情的になってしまいますが、その感情は医師やステークホルダーの心とマインドを、医療の大義へと動かすことができるのです」

 

事故対応のプロセスにPXを含めることは、医師やステークホルダーが何がうまくいかなかったのか、どれほどひどいものだったかを反芻する機会となります。

そして、患者の安全に関するインシデントが発生した場合、多くの患者とその家族は対応に関与したいと考えています。「患者は医療の質改善に貢献したいと考えています。非常に大きなダメージを被った場合に、ほかの患者にもインシデントが発生しないように、と決意をもってコミットメントします。患者とその家族が医療機関とともに、状況を改善することでケアチームなどの医療関係者はやりがいのある状況に身を置くことができます」とStephanieさん。

 

ただし、「慎重かつ意図的に取り組む必要がある」とPatさんは言います。「危害を加えられた患者やその家族の心が治癒し、その経験を生々しく感じないようにするには一定期間が必要です。インシデントが発生した場合、医師は改善に向けて学ぶ際に患者や家族から教わるのが最適ですが、その過程で追体験することになると、感情的になってしまいます。変化へのコミットメントがある限り、患者は起こったことを大目に見てくれます」

 

「PXを品質改善に、率先して加えるべきです」とStephanieさん。たとえば病院が、プライマリケアの実践として、何かを改善したいと判断した場合は患者に意見を求め、患者の視点を得るためにかかわることが有効だとしています。Patさんは「その際に重要なのは、患者は単なる相談役や承認者ではないということ。彼らは変化へのコミットメントを望んでいて、そのために自分の時間と経験を費やしているのです」

 

Link:https://www.healthleadersmedia.com/clinical-care/patient-experience-key-element-safety-and-quality-improvement-initiatives

 

 

 

 

 

2. CXに代わる「BX」とは?


従来のCX(Customer eXperience;顧客経験価値)からBX(Business of Experience)へ――。グローバルの総合コンサルティング会社・アクセンチュアが打ち立てている新しい顧客の概念であるBX。PXとも親和性が高いCXですが、今後変わっていくのでしょうか。

 

2020年新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )のパンデミックによって、消費者行動の変化は加速しているといいます。企業はCXの定義を超えた、卓越したエクスペリエンスの提供を中心にビジネス全体を組織化しようとする気運を高めています。エクスペリエンスは、顧客の新しい変化するニーズに応え、顧客が望む結果を達成できるようにしなければならず、同社ではそれをBXと定義しています。

CXの進化系であるBXは、企業がより顧客志向にシフトし、確実なビジネス成長を再び促進するためのより包括的なアプローチ。BXは企業運営のあらゆる側面に関連するため、CEO(最高経営責任者)の優先課題となり、経営戦略として扱われます。77%のCEO が「顧客とのかかわり方やコミュニケーションの取り方を根本的に変える必要がある」と回答しています。

 

BXは収益増にもつながります。世界21カ国、22の業界にまたがる1,550人の経営者(うち約4分の1がCEO)を対象としたアンケート結果では、BXにとって重要と定義した要素を採用し、実践できるよう方向転換した組織は、同業他社と比較して少なくとも平均6倍以上の前年比収益を達成していることがわかっています。

BXがビジネス上の最重要課題となっている背景には、CXを取り巻く3つの主要な問題の存在があります。「顧客ニーズ」「似通ったCXの飽和(=CXの同一性) 」「パーパス(存在意義)指向への飛躍」です。

 

顧客ニーズ
変化する顧客のニーズに多くの企業が迅速に反応することができず、融通の利かない対応や行動が追いついていない様子が見られます。現在の消費者は直接競合しない業界や企業が提供するエクスペリエンスを比較し、劣っていると評価した企業やブランドからは離れていきます。例えば、モバイルサービスのプロバイダーを利用した際の体験とトップクラスの航空会社を利用した際の体験、あるいはAirbnbのようなデザインやテクノロジー主導のサービスを利用した際の体験など、消費者のあらゆる体験の中で横並びに比較されることになります。

似通ったCXの飽和(=CXの同一性)
CX投資が成功すると、顧客数と売上の増加、顧客ロイヤリティの向上などの素晴らしい成果を得ることができます。今後もCXの重要性が低下することはないでしょう。CXのタッチポイントは、25年以上にわたり世界中のCXデザイナーによって段階的に改善されており、規範となるモデルがすでに確立されていますが、タッチポイントだけでエクスペリエンスの差別化を図ることは、これまでの数十年間と比べてかなり困難です。

パーパス(存在意義)指向への飛躍
今日の企業には、質の高い製品やサービスの提供だけではなく、企業としてのパーパス(存在意義)を社会に明示することが求められています。消費者の10人中8人が、企業のパーパスはCXと同じくらい重要だと考えています。同社の調査対象の20%を占める優秀企業(財務成長とビジネスサイクルの耐久性において成功している企業)がその他の企業と比較して2.5倍高い割合で「エクスペリエンスに直接つながるブランドプロミスを確立・証明できている」と回答しています。

 

記事では、BXがもたらす価値を最大限に引き出すために有効な4つの成功パターンとして、次の4つが挙げられています。

1.顧客ニーズにこだわり、それを羅針盤とする

2.エクスペリエンスの革新を日常の習慣に

3.組織全体でエクスペリエンスにコミットする

4.「ひと」の課題解決のためにテクノロジーとデータを活用する

 

PXもより個別志向(オーダーメイド医療)となっていくのでしょうか? BXについてもっと知りたい方は下記リンクから全文を読むことができます(日本語)

Link:https://www.accenture.com/jp-ja/insights/interactive/business-of-experience?c=acn_glb_brandexpressiongoogle_12703826&n=psgs_1221&gclid=CjwKCAiAyPyQBhB6EiwAFUuakuAn7zALt7VplzomTm7hDQiKJIsdkZ2cMvfHyy5ZRLEl6_awMEr3HRoCb2kQAvD_BwE

 

 

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では、3月5日(土)12:30-13:30、オンライン勉強会「第8回PX寺子屋」を開催します。

テーマは以下になります。HCD(Human Centered Design;人間中心設計)とはユーザーの視点に立った設計を行うことで、ものづくりに欠かせない視点です。PXに取り組むうえで幅が広がる知識を得られる機会です。一般1000円、会員は無料となります。多くの方の参加をお待ちしています!

 

「PX概論」      医療法人社団 松井病院看護部長 菊池明美

「PXとHCDの親和性」 神奈川大学 経営学部准教授博士(情報学)/HCD-Net理事/ 認定人間中心設計専門家 飯塚 重善

 

申し込みは、会員の方は本日3月3日までです(非会員の方は締め切らせていただきました)。下記リンクから申し込みください。

https://www.pxj.or.jp/events/

 

 

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PX研究会では医療機関や企業でPXを広めるエバンジェリストとして、PXE(Patient eXperience Expert)の認定を行なっています。現在、2022年度の第4期生の募集を開始しています。PXについて体系的に学べます。多くの方のエントリーをお待ちしています。詳細と申し込みはリンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


欧米では国と国との間を自由(そう)に行き来していて羨ましく思っていましたが、戦争によってヨーロッパがまた遠くなりました。またロンドンバスに乗りたいです。(F)