日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.197

1.「ELEVATE PX2022」で語られたこと
2.患者からのフィードバックを活かすには?
3. 今後の予定

1.「ELEVATE PX2022」で語られたこと


アメリカのPX推進団体であるThe Beryl Instituteが主催するPX(patient eXperience;患者経験価値)を学べるイベント「ELEVATE PX2022」が3月28~30日に開催されましたが、その様子について、参加者が米メディアプラットフォームのBecker’s Healthcareに投稿した記事を紹介します。

 

The Beryl Instituteのコミュニティは世界6万人以上で、PXを推進するリーダーや患者支援者と関連組織で構成されています。イベントでは、PX向上のために共有するテーマがいくつか挙げられました。

テーマの1つめは、イベントに参加したほぼすべての組織が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最終局面を迎えるにあたり、PXのパフォーマンスを回復するための取り組みを行っていました。PXの“国家的危機”は、全米の患者からの評価が低下していることからも明らかです。私は多くの同僚と、PXに再び焦点を当てるための計画をどのように作成しているかについて話しました。

ベッドサイドでの回診や退院後の電話連絡など、組織内で中核となるベストプラクティスをどのように回復させるかについて話してくれた組織もありました。パンデミックによって患者が慣れ親しんだバーチャルな診療などを活用し、PXにイノベーションをもたらそうとしているところも多くあります。すべてのヘルスケアリーダーは、患者と家族のエクスペリエンスを回復するためにどのような計画を立てているのか、自問自答する必要があります。

 

2つめのテーマは、医療における公平性への広範なフォーカスです。結果における公平性だけでなく、エクスペリエンスそのものにおける公平性にも重点を置いた議論が数多く行われました。測定における公平性(患者さんを理解するためのデータ収集)、サービスやテクノロジーへのアクセスにおける公平性、そして将来のサービスデザインにおける公平性についての発表がありました。

多くの組織が、人種、民族、性自認に関する正確なデータ収集に関連する課題に取り組んでいます。このデータの収集には、患者や家族との信頼関係を強化するための丁寧なコミュニケーションが必要です。病院のリーダーは、PXチームや患者支援者を動員し、この作業に協力させるべきです。イベントにおける、この問題に対する熱の入り方から判断すると、PXのコミュニティに関与する準備ができている人はたくさんいます。

 

3つめのテーマは、医療現場へのボランティアの復活に関する議論です。パンデミックのもう一つの隠れた影響は、医療現場からボランティアがほぼ完全に姿を消したことです。ベッドサイドへの訪問が制限されたとき、ボランティアにも同じような制限が設けられました。また、身の危険を感じ、活動を終了するボランティアも少なくありませんでした。ワクチンの登場や、身の安全の確保ができるようになったことで、少しずつではありますが、ボランティアは組織に戻ってきました。

ボランティアは医療に欠かせない存在でありながら、過小評価されがちです。ボランティアは、私たちがミッションを達成するのを助けるだけでなく、医療従事者への道筋を示すものでもあるのです。人手不足が叫ばれる今、その重要性はますます高まっています。私たちは皆、地域社会とのつながりを取り戻し、組織内で再び強力なボランティアプログラムを実施するための計画を立て、強化する必要があると感じています。

 

最後のテーマは、患者のアドバイザーや擁護・代弁組織への参画です。The Beryl Instituteは、常に患者の代弁者があらゆるレベルで関与し、かかわっています。多くの医療機関が、私たちすべてをより患者・家族中心にするために、患者を有意義に巻き込む方法を見つけるのに苦労していることに心を打たれています。アドバイザリー・カウンシルは、いまだに多くの組織で立ち消えになっています。また、デザインプロセスの初期段階から患者のアドバイザーを参加させることにも、まだ苦労しています。バーチャルな手段で患者をアドバイザーとして参加させることには、多くのイノベーションの機会があります。アドバイザーを早い段階から頻繁に参加させることが、サービスや施設のデザインにかかわらず、最終製品をよりよいものにするという証拠をたくさん見てきました。しかし、そのためには、時間と費用の両方を投資しなければなりません。

 

世界でPXを推進する組織、人々の見識の広さに、日本はまだまだこれからだと感じました。今後、PXについての学びをさらに深めていきたいです。

 

Link:https://www.beckershospitalreview.com/patient-experience/newyork-presbyterian-cxo-rick-evans-what-s-on-patient-experience-leaders-to-do-list-this-spring.html

 

 

2. 患者からのフィードバックを活かすには?


2002年からPXサーベイを実施している英国のNHS(National Health Service;国民保健サービス)は、患者からのフィードバックを医療にどう反映させているのでしょうか。ヘルスケアのさまざまな課題についてリサーチを行っているNHSの関連組織であるNIHR(National Institute for Health Research;国立衛生研究所)の調査レポートを紹介します。

 

PXに関するデータは目的により、収集情報の種類や分析、使用が決まります。一部の医療スタッフや政策立案者にとってPXデータは、サービスの実績を評価するのに役立ちます。そのほかの人にとっては個々の患者の経験を理解、尊重することであり、別の人にはサービスを改善するためのものということです。

一方、患者や一般の人からすれば、お互いの経験を分かち合うことが挙げられます。情報やサポート方法などを共有し、他者の健康についての経験を聞くことは、聞き手の健康によい影響を与える可能性があります。一部の患者は、フィードバックを受けることは、サービスに対する公的な説明責任だとみなしているという報告もあります。

フィードバックにおいては、患者と医療スタッフそれぞれの目的が一致しない場合があり、医療スタッフは患者からのフィードバックを苦情と捉え、無意識のうちに無視してしまいます。また、医療スタッフの多くは信頼できるフィードバックが必要だと強く思っていても、データの活用方法を知っているわけではありません。NHSはフィードバックの収集に多大なエネルギーと費用をかけていても、診療の改善に必要な情報を提供するかに注意を払っていないといった指摘があります。

 

よいフィードバックを得るために必要なこととして、レポートでは主に次のようなものが挙げられています。

・フィードバックを収集するスタッフの感度の高さ

・大量の自由記述を引き出し、活用するための管理方法(ツール)

・フィードバックに基づいてスタッフが行動や組織を変える力(権限)

・PXデータの分析スキル

・PX向上に取り組むチームと、医療の質を改善するチームとの連携

・調査結果を評価、アクションに変換するためのサポート

・ポジティブ、ネガティブ両方のフィードバックを受けとめる

・スタッフに実用的な調査結果を提供する

・安全性、臨床的有効性データと関連づけてPXデータを示す

 

全文は下記リンクから読むことができます。

Link:https://cdn.ps.emap.com/wp-content/uploads/sites/3/2020/11/201118-Patient-feedback-how-effectively-is-it-collected-and-used.pdf

 

 

3. 今後の予定


PX研究会では医療機関や企業でPXを広めるエバンジェリストとして、PXE(Patient eXperience Expert)の認定を行っています。現在、2022年度の第4期生を募集中です。PXについて体系的に学べる内容となっており、多くの方のエントリーをお待ちしています。詳細と申し込みはリンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

 

***********

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


某デパートで開催されていたフランス展で、バスク地方の料理「アショア」を食べました。ボルドーのレストランのシェフが作ったものは異国の味がして、遠くなってしまった海外の空気感を含めて味わいました。(F)