日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol. 47

1.スタッフのwell-beingがPX向上に!
2.〔連載〕「PXとわたし」第14回 松本卓さん
3. 今後の予定

1.スタッフのwell-beingがPX向上に!


イギリスのNHS(National Health Service;国民保健サービス)がPXサーベイや分析を業務委託しているpicker研究所が出しているPXの関連情報を簡単に紹介します。

 

公的医療制度であるNHSでは、合法的にイギリスに滞在している人で臨床的に必要であると判断されれば、誰でも公費により受診できるサービスを提供する組織です。NHSでは需要の変化に対応していくために、年々雇用を増加させていて、2014年9月の統計では約140万人と、2004年から約12万5千人増加しています。スタッフの数は増えている一方、需要の変化に対応しきれていない現状があります。

picker研究所はその要因の一つとして、スタッフ数は増えても病欠、もしくは病気であるのに出勤している人の数が増えており、それによる損失がスタッフ一人あたり1000ポンドと大きくなってしまっていることを挙げています。ただ人数を増やすのではなく現場スタッフのwell-beingを大切にし、健康や福祉を支援すべきであると主張しています。

WHOによるとwell-beingとは、身体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態と定義されています。

さらに『Boorman NHS Health & Well-being Review』 (2009)によると、スタッフのwell-beingを重視した組織はそうでない組織に比べて患者満足度の向上、医療の質スコアの向上、良い治療結果、スタッフの定着率の向上、および病気による欠勤率の低下といった傾向が見られ、業績アップにつながっているとのことです。健康面のサポートによりスタッフの欠勤を3分の1に減らせれば、年間で340万日の労働日数を減らすことができるという試算結果も示されています。

NHSの調査によると現在、知人にNHSの病院を勧めたいと思う患者が2013年から減少していることが問題視されています。同レビューでは結論として、スタッフのwell-beingが業績向上、さらにはPXの向上にもつながり、訓練などによってwell-beingを追求するべきであると述べられています。

レビューの概要を紹介しましたが、詳しく知りたいという方はご一読ください。日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の勉強会でも今後、このレビュー内容を扱っていきます。

https://www.picker.org/wp-content/uploads/2015/06/2015-06-10-StaffWellbeingBriefing.pdf

2.〔連載〕「PXとわたし」第14回 松本卓さん


第14回目は、医師としての使命感からPXにたどり着いた松本卓さんです。今後のPXにまつわる武勇伝!?を楽しみにしています。

 

☆PX研究会との出合いと、勉強会に参加して思うこと

2018年10月に、以前勤務していた病院を退職して、心機一転ビジネススクールに入学した際に、プログラムの責任者の方が代表理事の曽我香織さんとお知り合いで、紹介してくださいました。

☆わたしのPX体験(自院での取り組み、患者としての経験など)

現在勤務している北海道紋別市の住民を対象に、病院に対する意識調査を行いました。結果は思ったよりも多くの住民の方が病院に対して「否定的」な印象を持っておられることが分かり、次のステップとしてPXサーベイを通じて、病院がどのようなサービスを中心に力を入れていけば、住民のニーズに応えられるのかを検討していきたいと思います。

☆ PXを学ぶ前後で変わった点

大学病院やその関連病院で勤務していた際に、自分たちの仕事は果たして患者さんのニーズに合っているのか、自分たちの手前勝手なサービスと主張を一方的に押し付けてしまっているのではないかということを漠然と考えていましたが、とてもそんなことを同僚や上司には言えませんでした。いわば、隠れキリシタンのようにその思いを秘めて悶々と過ごしていましたが、PX研究会に出合い、「患者さん中心の医療を展開する」ということを胸を張って言って良いんだと思うことができて、心のつかえがとれたような気がしました。

さらに、一歩踏み込んで患者さんのニーズということを直感や創造で言うのではなく、PXサーベイのように客観的なデータとして示すことが、ゆくゆくは組織改善、イノベーションにつながるのではないかと思うようになりました。

☆PXにかかわって良かったこと・得したこと

前述の住民調査の際もそうですが、曽我さんに多大なアドバイスをいただきましたし、PX研究会のメンバーという仲間がついていると思うと、正直面倒で大変だけど前に進めてみようを思うことができました。「早く行きたければ一人で行け、遠くに行きたければみんなで行け」というアフリカのことわざを実感しています。

PXとは?

組織(病院)改善の一つのツール、マーケットインを可能にする一つの手法であると思います。

 

☆自己紹介:

愛媛県出身です。現在は東京に住んでいて、北海道まで通勤しています。6歳になる娘と妻と3人暮らしです。専門は循環器内科です。曽我さんにときどき、明智(光秀)さんと呼ばれて複雑な心境ですが、かの武将のように有能で働き者の戦略家になれたら(ポジティブ!)と思っています。

 

3. 今後の予定


第26回勉強会の開催が近づいてまいりました。日本版PXサーベイの最新の取り組み状況などの発表を予定しています、ぜひご参加ください。

 

第26回 PX研究会 勉強会

3月16日(土)13:30-15:30

場所:株式会社イトーキ SYNQA 2F

「PX概論」

「日本版PXサーベイ分析における新手法の提案」 斎藤恵一 国際医療福祉大学 教授

「日本版外来PXサーベイ 改善に向けて」 西本祐子 国立病院機構九州医療センター 小児外科医長

会費:勉強会参加費 1000円(研究会員は無料)

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

編集部から

2週間ほど前、激痛で目が覚めました。身体の右側、首から肩甲骨にかけてが痛く、首が曲がった状態のまま近所のクリニックへ。ヘルニアとのことでリハビリに通っています。かゆいところに手が届くスタッフの心遣いだったり、カフェに寄ってコーヒーを頼んだら飲みやすいようにストローをつけてくれたり、PXやCXについて考えるいい機会となったのでよしとします!(F)