日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.224

1.患者教育とエンゲージメント
2.PXと医療の安全性
3. 今後の予定

1.患者教育とエンゲージメント


患者教育は治療前後の管理、慢性疾患の管理、予防医療へのアクセスにおけるエンゲージメントの鍵となるといいます。エンゲージメントを高め、アウトカム向上に欠かせない理由について、ヘルスケア領域のB2BメディアであるXtelligent Healthcare Mediaの記事で触れています。

 

医療業界は患者エンゲージメントの向上を推進することで、より患者を中心に据えた取り組みを多く行ってきましたが、その向上には、医療従事者が患者教育について理解する必要があります。

米国家庭医学会(AAFP)によると、患者教育とは「患者の行動に影響を与え、健康の維持・増進に必要な知識、態度、スキルに変化をもたらすプロセス」です。そして医療従事者は、患者自身の健康やウェルネス、それを実現するために必要なケアマネジメント戦略、医療業界を渡り歩くためのベストプラクティスについて、患者さんによりよく伝えるために患者教育戦略を活用することができます。

患者教育戦略によって、例えば患者が手術に備えることができるように受診前に必要な作業を完了させておくために用いることができます。また医療機関は、患者が手術後に自分自身をケアできるように検討することもできます。慢性疾患の分野では、患者教育が患者の自己管理に役立ちます。慢性疾患管理のほとんどは医療施設の外で行われるため、自分の病状や健康維持のために取るべき措置について知識がある患者は、よりよい結果が得られます。

また、スクリーニングやワクチンのスケジュール立てと、それらのサービスにアクセスすることの重要性を患者に伝えることで、患者がプライマリおよび予防サービスを利用できるようにするためにも患者教育は不可欠です。

医療機関や医療従事者が、以下の領域で患者教育戦略をうまく展開できれば、患者はより大きな力を得ることができ、臨床の質向上を達成することに関与するようになります。

 

★手術前後の患者教育
全米の医療機関が予約や患者受け入れプロセスのデジタル化に着手したことで、患者への働きかけや教育のための新たなツールを発見することができました。

大腸内視鏡検査といった、事前に食事の準備が必要な処置を予定している患者は、処置に向かう前に断食をするように促すテキストメッセージを受け取れるようになるでしょう。2021年6月、研究者らはケア前の患者教育とともに9通のテキストメッセージを送ることで、大腸内視鏡検査に最適な準備ができたと記しています。テキストメッセージは、看護師が教材を持って患者に電話をかけるのとほぼ同等の効果があることが、研究者らによって明らかにされました。このような患者教育は、特定の手術を受けた患者の退院時にも必要不可欠です。特に侵襲的な処置を受けた患者は、再入院を防ぐために帰宅後のケア方法を知っておく必要があります。教育的な努力は、家族介護者にも及ぶべきであるというのが、多くの専門家の意見です。

退院時の患者教育では、次のようなことに重点を置くべきだと指摘しています。

・服薬指導

・臨床的ニーズに対応するためのケアマネジメントや技術
・個々の患者のニーズや状況
・予想される副作用の症状

医療従事者は、このような教育分野の概要を示すことで、患者とその介護者に自宅でのケアを管理するための知識を身につけさせることができます。このような在宅ケアマネジメントは、アウトカムの改善だけでなく、患者の活性化やエンパワーメントの強化にもつながります。

 

★患者教育およびナビゲーション、予防医療

医療従事者は、予防医療サービスのアドヒアランスを支援するために患者教育を利用できます。スクリーニングや毎年のインフルエンザ予防接種のような予防サービスは、患者が慢性疾患や急性疾患を発症しないように、あるいは少なくともその疾患を早期に発見するために不可欠です。そうすることで、医療機関はより負担の少ない医療をより低いコストで提供することができます。例えば、糖尿病予備軍を早期に発見することで、医療機関は生活習慣の改善を促し、病気の進行を抑えることができます。これは一般的に、重症化予防策よりも低コストです。

患者がスクリーニングやその他の予防措置を確実に実行できるようにするためにしなければならないことがあります。組織は典型的なスクリーニングのスケジュールについて患者に伝えると同時に、スクリーニングの重要性について患者を教育する必要があります。ほとんどの医療機関では、広範なマーケティング手法と個別の患者への働きかけを組み合わせて、このような教育を行っています。患者教育キャンペーンには、電子メール・マーケティング・リストや病院またはクリニックのウェブサイトを利用することができます。

また、個々の患者に対してはそのケアギャップを埋めることの重要性を強調する通知を送ることができます。医療機関によっては、データ抽出やアウトリーチを手作業で行うこともできますが、時間がかかり、人為的なミスが発生しやすくなります。ヘルスケアITの活用によって、このプロセスを自動化し、すべての患者が教育的メッセージを受け取れるようにすることができます。

米国ミシシッピ州ジャクソンにあるChildren’s Medical Groupでは、思春期のCOVID-19の予防接種を予約するために、自動患者支援ツールを使用しました。この診療所のエグゼクティブディレクターである Chuck Rayさんは、州の政治情勢の中で患者教育を行う必要があることを理解していました。「私たちは、12歳以上を対象にCOVIDワクチンの接種を開始しました。そして、12歳以上を対象とした大規模なキャンペーンを実施し、ワクチンに関する教育資料や情報、効果などを提供しようとしました。特に私たちの州では、ワクチンに対する抵抗感が強いのです」と彼は指摘します。「私たちは、メッセージングが大げさすぎず、どちらの側にも受け入れられるようなものであることを、より強く意識しました」

このような慎重なアプローチにより、Children’s Medical Groupは患者との信頼関係を築き、最終的には家族に予防接種を受けさせるのに必要な信頼を得ることができました。医療関係者は、この原則を他の予防サービスにも応用し、患者さんのモチベーションと信頼関係を利用して、予防の重要性を理解してもらうことを検討してもよいでしょう。

 

★患者教育の主要な戦略

・多言語で書かれた患者教育資料の提供
・患者へのティーチバック
・医療従事者の共感
・患者の動機付け
・教育のフォローアップ
・患者のヘルスリテラシーのレベル上げ
・健康の社会的決定要因のバリア

全文は下記リンクから読むことができます。

Link:https://patientengagementhit.com/news/why-patient-education-is-vital-for-engagement-better-outcomes

 

 

2. PXと医療の安全性


PX(Patient eXperience;患者経験価値)向上によって平均在院日数、投薬ミスの減少といった医療の質改善につながるとされています。医療の安全性、インシデントとPXとの関連について言及している、米国テネシー州のヘルスケア関連のマルチプラットフォームメディアHealthLeadersの記事を紹介します。

 

患者視点を考慮することにより、医療の安全性と質向上の取り組みにさらなる価値が生まれる――。PXはインシデント対応と質改善、患者中心のケアにおいて重要な要素です。シカゴを拠点とし、医療の質改善の活動を行う非営利団体Project Patient CareのPat Merryweather-Argesさんは「PXを定義するときに最も重要なのは患者の視点です。さまざまなレベルがありますが、PXを生み出すのは1対1の出会いであり、PXをより幅広く理解するためのサンプリングツール、もしくは調査ツールが必要かもしれません」と話します。

Patさんはインシデントが発生した際に、PXが重要な役割を果たす可能性についても指摘します。「PXは患者が被害を受けた際に非常に価値があります。なぜなら患者は診断を見逃した、何も聞いていなかった、もしくはほかの要因があったといった批判ができるからです」

インシデントが発生した場合に、PXはケアチームやその他の医療関係者のモチベーションを高めることができる――。医療に関する品質管理の資格認定を行っているNational Association of Healthcare QualityのCEO兼エグゼクティブディレクターであるStephanie Mercadoさんは指摘します。「PXを取り入れることで安全についての出来事を、人間味のあるものにすることができます。また、プロセスに焦点を当て、どうやって改善を達成できるかといったことにストレートにアプローチすることが可能です。重大な医療ミスで患者の視点を持ち込むことは感情的になってしまいますが、その感情は医師やステークホルダーの心とマインドを医療の大義に向けて動かすことができるのです」

 

事故対応のプロセスにPXを含めることは、医師やステークホルダーが何がうまくいかなかったのか、どれほどひどいものだったかを反芻する機会となります。

そして、患者の安全に関するインシデントが発生した場合、多くの患者とその家族は対応に関与したいと考えています。「患者は医療の質改善に貢献したいと考えています。非常に大きなダメージを被った場合に、ほかの患者にもインシデントが発生しないように、決意をもってコミットメントします。患者とその家族が医療機関とともに、状況を改善することで、ケアチームなどの医療関係者はやりがいのある状況に身を置くことができます」とStephanieさんは話します。

ただし、「慎重かつ意図的に取り組む必要がある」とPatさんは言います。「危害を加えられた患者やその家族の心が治癒し、その経験を生々しく感じないようにするには一定期間が必要です。インシデントが発生した場合、医師は改善に向けて学ぶ際に患者や家族から教わるのが最適ですが、その過程でしばしば追体験することになり、非常に感情的になってしまうことがありますが、変化へのコミットメントがある限り、彼らは起こったことを大目に見てくれます」

「PXを品質改善に、率先して含めるべき」とStephanieさんは話します。たとえば病院が、プライマリケアの実践として、何かを改善したいと判断した場合は患者に意見を求め、患者の視点を得るためにかかわることが有効だとしています。Patさんは「その際に重要なのは、患者は単なる相談役や承認者ではないということ。彼らは変化へのコミットメントを望んでいて、そのために自分の時間と経験を費やしているのです」

Link:https://www.healthleadersmedia.com/clinical-care/patient-experience-key-element-safety-and-quality-improvement-initiatives

 

 

 

3. 今後の予定


PX研究会では11月26日、第10回PX寺子屋を開催します。今回のトピックは、医療機関の大きな課題となっている働き方改革にPXを関連づけたお話しです。

 

11月26日12:30~13:30

「PX概論」  松本卓 やまと診療所医師

「PX・EXを高めるスマートホスピタル実現に向けた取り組みのご紹介」

小倉環 大成建設デジタルファシリティソリューション室

 

参加費1000円(会員は無料)でどなたでも参加できます。下記リンクから申し込みください。

Link:https://www.pxj.or.jp/events/

 

***********

PXの認知度向上のための年1回の一大イベント、第5回PXフォーラムを12月10日14:00~17:00に開催します。テーマは「各国の取り組みから学ぶ ~グローバルにおけるPX~」。医療機関でのPX導入が進んでいる海外事情、日本でのPX導入・改善事例などを紹介します。

目玉となる企画は、フランス「French Patient Experience Institute」のCEOであるAmah Koueviさんによる特別講演「Patient experience: universal vision, specific actions(PX:普遍的なビジョンと具体的なアクション )」です。

 

参加費3000円(会員は無料)です。詳細および申し込みは下記からお願いします。

Link:https://www.pxj.or.jp/pxforum2022/

 

 

***********

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


近所にいつの間にか「宇和島駅」ができました。私が好きなアーティスト(現代美術作家)の作品です。(F)