日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.70

1.第29回勉強会レポート
2.連載「Patient Stories」第11回 慢性感染症を引き起こす疾患は?
3. 今後の予定

1.第29回勉強会レポート


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会は8月24日(土)に第29回勉強会を開催しました。今回はゲストスピーカーとして、早稲田大学大学院経営管理研究科教務主任・教授でマーケティング国際研究所所長の川上智子さんを招き、「マーケティング最前線におけるCX」をテーマにお話いただきました。マーケティング論を専門とする立場から、デジタル化時代のCX(Customer Experience)の捉え方を、PXに関連づけて説明してくださいました。

 

最初にマーケティングにおける「経験価値」を提唱したコロンビア大学のバーンド・H・シュミット教授の考え方を紹介。「楽しい経験に関心を持つという消費者の感情、非合理的な部分に着目したうえでサービス提供を行うことが経験価値である」とし、それを医療に置き換えての解説がありました。

顧客は「認知」「感情」「社会性」「感覚」という4つの次元で心理的反応を示し、それぞれに対するアプローチを考えることがCXを高めることにつながります。医療に置き換えると、「診療・治療に関する正確な情報提供」「治癒への期待・喜び」「医療スタッフとの温かい交流」「日常と同じ感覚経験(音楽や色彩)」によってPXが向上すると考えられるといいます。

川上さんは消費者が製品を知り、購入にいたるまでの心理プロセスを図式化した「消費者反応モデル」について説明し、「現在のデジタル化時代では、オンラインとオフラインを統合したアプローチが有効」と指摘。具体的にはカスタマー・ジャーニーを取り入れることでCXを測る(質的側面)と同時に、コンバージョン(Webサイト上で獲得できる最終的な成果)による量的側面も測定することで全体最適を図っていくとしました。

 

また、患者が「その病院にかかりたい」と考える要因についての実証研究(2014年12月実施)を紹介。30~60代の患者200人に調査した結果として、最新設備や施設のきれいさ、スタッフの身だしなみと、スタッフの患者対応(共感性)が知覚品質(消費者が製品やサービスに対して認識する品質、ここでは病院を選ぶ際に影響する要素)として有意差がありました。

医療はサービス業と考えれば、マーケティングの考え方や手法を取り入れることが必要となってきます。O2O(Online to Offline)を導入したカスタマー・ジャーニーは、入院から退院までの各プロセスでの患者経験を測るPXにも適用できそうです。

 

そのほか、名古屋で7月19~20日に開かれた「第21回日本医療マネジメント学会学術総会」への参加報告がありました。PX研究会としての参加は3年目ですが、今年は過去最多の6人が登壇し、一般演題(口演)で1セッションを組むことができました。PXサーベイの実施病院を増やす、PX改善や構造改革をどう進めていくかなどの課題に取り組み、来年の学会で発表できればと考えています。

 

勉強会後に納涼会(懇親会)を行いました! いつもながらの高いテンションで大いに盛り上がりました(初参加の方は驚かれたかも?)。外は明るいですが……18時前です。

 

 

2.連載「Patient Stories」第11回 慢性感染症を引き起こす疾患は?


第11回の「Patient Stories」は、息切れや咳などが慢性化した男性が主人公。これらの症状から複数のスペシャリストがコラボレーションにより複数の病気を見つけ、治療に臨むことで、男性は楽に呼吸できるようになりました。チーム医療の醍醐味が伝わるストーリーです。

 

☆複雑な病気に複数の専門医が挑む

Rolen (Ron) Ferrisさんは会議のためにホームタウンを離れていた時、血を吐きました。緊急治療センターに駆け付けたところ、看護師から肺炎と心雑音があると指摘され、帰って医師に診てもらうよう言われました。ペンシルバニア州メカニクスバーグに戻って受診し、左肺に胸膜の感染症による膿胸とともに肺炎を患っていると診断されました。また、僧帽弁からの血液の漏れが見つかり、心臓専門医からクリーブランドクリニックを紹介されました。

来院前、Ronさんは息切れや体重減少、咳など慢性感染症の症状が出ていました。地元の病院で胸腔鏡下手術により膿胸を摘出し、術後に抗生物質を服用している段階で、同クリニックのミラーファミリー心臓血管研究所の心臓胸部外科医の Ken McCurryさんの診察を受けました。「白血球数が増加しており、いくらかの感染症があることを示すものです。膿胸が残っていることも心配しました」

Kenさんは同僚の胸部外科医のSudish Murthyさんと感染症の専門医であるSusan Rehmさんに連絡し、同じ日にRonさんを診てもらい、膿胸が治ったうえで僧帽弁の修復手術が必要であるという結論に至りました。2カ月間、抗生物質を投与したものの白血球数が上昇したままで感染症が持続していたことからSusanさんはさらなる検査を行い、最終的に慢性リンパ性白血病(CLL)と診断しました。「Ronさんの感染症が続いたことが手掛かりとなりました」とSusanさんは言います。現時点ではCLLの治療は必要とせず、継続的な検査を行っています。

「僧帽弁逆流は一般的でありますが、Ronさんの症例は少し複雑で困難なものでしたが修復手術は非常にうまくいきました」とKenさんは振り返ります。Ronさんはペンシルバニアの自宅から遠隔診察によりフォローアップを受けています。「とてもいい気分でうれしいです。術後12週でスキーにも行けました」とRonさん。「世界クラスのサービスを受けるためにクリーブランドクリニックに来院し続けます。5時間の運転も問題ありません」

Sudishさんは「複数の専門医とのコラボレーションにより、Ronさんの心臓弁の問題をクリアし、肺の感染症を治療し、白血病を発見することができました。彼の病気の複雑さが、クリーブランドクリニックを紹介された理由でしょう」と話します。

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/268-collaboration-between-heart-lung-and-infectious-disease-specialists-helps-patient

 

☆☆☆

日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では今年から、PXの高い医療機関を投票によって決める「PXアワード」を開催します。医療従事者、患者、企業の方、どなたでも投票可能です。PXの高い医療機関として推薦する医療機関名と推薦理由、あなたの患者としてのストーリーをお寄せください。

PXアワード2019

3. 今後の予定


第30回勉強会を10月19日(土)に開催します。患者側からPXを語っていただくゲストを初めてお呼びます。

 

第30回 PX研究会 勉強会

10月19日(土)13:30-15:30

場所:(株)セントラルユニ マッシュアップスタジオ

http://www.central-uni.co.jp/mashup-studio/

※通常と開催場所が異なります。お間違えのないようにお越しください。

 

「PX概論」 国際医療福祉大学大学院教授 斎藤 恵一

「8カ月に及ぶがん治療における私のPXについて」 ティーペック株式会社 がん対策推進企業アクション 認定講師 花木 裕介

 

会費:勉強会参加費 1000円(研究会員は無料)

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


少し前にプロ野球観戦で東京ドームに行きました。特定の球団推しはないのですが、ハイボールを飲みつつ、一投ごとに息も飲みながら臨場感を味わいました!(F)