日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.83

1.オリーブ在宅クリニック(法人会員)のご紹介
2.連載「Patient Stories」第21回  余命3年だったサバイバーの10年後
3. 今後の予定

1.オリーブ在宅クリニック(法人会員)のご紹介


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では患者中心・患者視点の医療サービスの実現を図るため、さまざまな活動を行っています。活動の1つとして、PX普及に賛同いただき、PXの輪を広げていただける法人会員を募集しています。

今年新たに法人会員になっていただいた名古屋市守山区のオリーブ在宅クリニックは、同区と隣接する春日井市で在宅医療を中心に展開しています。院長の木村卓二さんに、クリニックの取り組みやPXへの思いなどを寄せていただいたので、ご紹介します。

 

☆「その人らしく生きるためのお手伝い」でスタッフ、利用者、地域をHappyに

設立までの経緯ですが、振り返って考えてみればそもそも、私が医師になろうとしたことにすべて起因していたと思います。

私は、中学2年生のときに、医師を志しました。病院の職場見学で、当時、「老人病院」と言われていた慢性期の病院を訪れました。そこにいらした患者さんの拘縮した姿、床ずれのできた姿、拘束された姿を目の当たりにし、このような姿であっていいのだろうか?という疑問をもちました。当時、高齢者は戦後の日本を支えたヒーローのように思っていましたので、そのような姿に愕然として、自分が医師になれば何か変えられるのではないかと考えたわけです。

大学の医学部では解剖、生理などの基礎医学から、内科や外科といった臨床医学を教わりますが、病を負った人とどのようにかかわればいいのか、ということは教えてくれません。また、外科の授業ではがん細胞のある臓器をとれば根治術といい、一方小児科の授業では臓器がなければ先天性疾患という世界。「1つの臓器を持っていない」ということが、何をもって病気となり、何をもって治療となるのか。診療科などによってまったく変わってしまう、この世界はなんだろう?と思いました。

疾患は重すぎると治療ができないとなり、軽すぎると治療の出番はありません。そうすると医師の仕事はいったいなんなのだろう?とも思うようになりました。研究などの重要性はわかるものの、自分がそうしたことを担えるように到底思えず、しかし病気を背負った生活を一緒に考えていくことはできるのではないかと考え、 数々の経験を経て到着した道が在宅医療でした。

 

人は、医療のために生きるのか?生きるために医療を受けるのか?どちらが正解というわけではないでしょうが、私の考えとしては生きるための医療を提供することで患者さん一人ひとりをお手伝いしたい、という思いが強くあります。さらに人は誰しも、最期は死ぬことはわかっています。その過程において必ず、病み、障害などで動けなくなる日がおとずれます。最期までその人らしく生きるためにはどうするのか?何がお手伝いできるのか?そのためにはまちづくりにも一役買わなければなりません。

そう考えた結果、現時点での当院の理念は、『過ごしたい、過ごさせたい気持ちを最大限に大切にしたお手伝いで、病があっても障害があっても、過ごしたいところで過ごしたいように過ごせる。そんな世界の実現を目指し、一人一人の在宅医療のある暮らしを創造する。そしてスタッフ、利用者、地域がHappyになる、そんなよいクリニック』としています。

当院は都市型の在宅医療クリニックです。そのため、在宅医療を「都会の中のへき地医療」と位置づけています。在宅医療の利用者の方は、生命に直結するものはなんとか病院に受診されますが、直結しないものについてはないがしろにされていることが多い。当院は、そのないがしろにされる部分を最重要視して在宅医療に取り組んでいます。

 

☆PXは「三方よし」を実践する、重要な羅針盤

PXについては、WEBの記事で知ったと記憶しています。

医療における主役は医療者ではなく、顧客である患者そのものです。そうであるならば患者の価値、患者のニーズに沿った医療提供が、将来にわたって展開される、もしくは展開されると予想されたうえで現時点での最良の医療が提供されているのか。そしてそれが医療経済、社会資源など、提供する側の現実的な都合も含めて検討されたうえで実践できるのか。

そのような視点から、PXは医療におけるいわゆる近江商人の「三方よし」を実践するうえでの重要な羅針盤となるものだと捉えています。

法人会員となったのは、「詳しいことは、まず飛び込んでみないとわからない」と考え、今まで取り組んできたからです。会員になってしまえば、あとは実践するように自らに課していく、という方法ですね。今後は会員として、以下の5つについて取り組んでいきたいと思います。

・まずはPXをしっかり学ぶこと

・PXをスタッフに十分浸透させること

・目の前の人に応用すること

・地域へ展開していくこと

・最終的に日本、世界での発展に貢献すること

Link: https://olive-homecare.com/

 

 

2.連載「Patient Stories」第21回 余命3年だったサバイバーの10年後


もし「余命〇年」と宣告されたら、何をしますか。受け入れますか、それと必死になって闘いますか――。第21回「Patient Stories」は、余命3年から10年以上生きることができた女性とその夫の闘病の物語です。小さな4人の子どもがいるといった患者の生活を考え、難しい選択を自らに課した医師の本気度が患者に伝わったとき、不安や恐れが希望に変わるのだと思いました。

 

☆医師の「自信、決意、思いやり」が患者を救う

「親愛なるBenzel博士。妻のAlbina Dugganは転移性肝がんと診断されています。現時点ではC1の頚椎の腫瘍が原発だと考えられます。腫瘍はC1の一部を壊し、脊柱管に1㎜と迫っています。明らかに時間がありませんが、適切に対応できる人を見つけることも重要です。私たちが信頼する医師は、私たちが相談すべきはあなただけだと言っています」

これは、TimとAlbinaのDuggan夫妻が、現在クリーブランドクリニックのSpine Healthセンターの神経外科の名誉教授であるEdward Benzelさんに最初に連絡をとった内容です。2004年7月のことで、当時36歳だったAlbinaさんは余命3年と宣告されていました。まれなタイプの肝がんが身体に広がっており、その多くが首に集中し、激しい痛みを引き起こしていました。

当時シカゴに住んでいたDuggan夫妻は、肝臓全体にがんが広がっている妻のAlbinaさんの症例はリスクが高すぎると地元の神経外科医に見放されました。そこで最も大胆に、複雑な手術を行える医師を探し始めたところ、Edwardさんを見つけました。Edwardさんは神経外科に関する何百もの論文と著書があり、数十人の専門医をトレーニングしていました。「私たちには3~11歳の子どもが4人います。あなたに伝える必要がないことはわかっていますが、重要なことなのです。私たちは死に物狂いで助けを求めていて、病気を打ち負かすのに必要なことは何でもする用意ができています。あなたの助けがあれば可能であることがわかっています」とTimさんは必死でメールを送りました。

Edwardさんのアシスタントはメールを受け取り、すぐにTimさんに電話しました。Edwardさんが朝の会議を終えた瞬間に、メールを渡すと言いました。そして1時間後に再び電話をし、Duggan夫妻がクリーブランドクリニックに到着するまでの時間をたずねました。

Duggan夫妻は翌朝クリーブランドに向かい、Edwardさんと面会したときに、その自信と決意に勇気づけられました。「Edwardさんと初めて会って素晴らしいと思いました」とAlbinaさんは振り返ります。「彼が大きな笑顔を浮かべながら歩いてきたのを覚えています」

Edwardさんは4つのオプションを提示したところ、Duggan夫妻から「あなたならどのオプションを選ぶか」とたずねられました。「腫瘍の完全切除と脊椎の安定性を図れるオプションを選択すると伝えたら、彼らはすぐにそれで行こう、と言いました」とEdwardさん。

Albinaさんは首の手術を2回受けて、ヒューストンに向かい、極めて稀な肝臓がんの専門医に会いましたが肝移植の中止、経皮的ラジオ波焼灼療法、最終的にはAlbinaさんを除いてすべてのがん患者に効果がなかった臨床試験などを経験しました。

14年後の現在、Albinaさんは薬物療法で肝臓とリンパ節のがんを制御し続けています。2014年にDuggan一家が開いたAlbinaさんのサバイバー10年を祝うパーティにはEdwardさんを招待し、妻や孫とともに参加したEdwardさんは「何も見逃したりしないよ!と言いました」と振り返ります。パーティではDuggan一家とその友人たちが、Albinaさんを助けたEdwardさんに感謝を伝えました。「彼は私たちが出会ったなかで最も勇敢で、思いやりがあり、本物の医師として際立った存在です」とTimさん。

「最初の面会で、EdwardさんはAlbinaを4人の小さな子どもをもつ親であり、彼の知識と努力をすべて使うに値するとみていました。彼はAlbinaを親身になってケアしてくれたので、私たちはEdwardさんのことを本当に家族の一人だと考えています」

 

 

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/235-10-years-later-neurosurgeon-celebrates-with-cancer-patient-given-three-years-to-live

 

 

3. 今後の予定


第31回勉強会を12月14日(土)に開催します。今年の振り返りと来年に向けた活動報告、発表を行います。

 

第31回 PX研究会 勉強会

12月14日(土)15:00-17:00

場所:イトーキ SYNQA

https://www.synqa.jp/access/

※通常と開催時間が異なります。間違えのないようにお越しください。

 

「PX概論」 松下記念病院 看護部看護師長 小松良平

「PX分科会リーダーによる活動報告」

「1年の振り返り」 公立昭和病院 事務局業務課課長 笹野孝

 

会費:勉強会参加費 1000円(研究会員は無料)

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

 

編集部から


小学生以来のアメフト観戦。細かいルールはわからなかったけど十分楽しめました!スポーツはライブで観るに限りますね。(F)