日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.90

1.海外のホワイトペーパーのススメ
2.連載「Patient Stories」第28回 ピカソの絵からの回復
3. 今後の予定

1.海外のホワイトペーパーのススメ


PXについての最新情報を知りたい場合、“PX先進国”であるアメリカやイギリスなどのPX関連サイトや文献を読むことになります。アメリカのPX推進団体「The Beryl Institute」では、PXに関するさまざまなホワイトペーパー(報告書)を発行しています。

 

医療機関でPXを推進するには、リーダーの存在が欠かせません。『Experience Leader:A Critical Role at the Heart of Healthcare』(PXリーダー:ヘルスケア組織の中心での重要な役割)というホワイトペーパーでは、リーダーシップの進化と多様性に関するデータの洞察と、5人のシニアPXリーダーの意見などを紹介、PXリーダーの役割を探ったものです。

▽PXリーダーは継続的な改善を望んでいる、▽リーダーシップを成功させるためには個人的なつながりとパートナーシップが不可欠、▽組織の戦略的な方向性との一致、▽成功するために学んだ教訓と行動の要点――といった内容が含まれています。

 

PXサーベイ実施病院に聞くと、看護部の協力がサーベイを行ううえでポイントなっています。別のホワイトペーパー『The Role of Nurse Executives in Patient Experience』(PXにおける看護師幹部の役割)は、看護師のリーダーシップの役割と、リーダーの看護師の基本的な実践とPXを成功に導くための行動を明らかにしています。

▽一人ひとりがPXに与える影響を認識させる、▽シニアリーダーシップ内にPXの文化をつくる、▽文化を維持するための不可欠な実践として、ゆるやかなリーダーシップにコミットする、▽PXジャーニーの目的意識にフォーカスする――など、看護師リーダーの考えやPXジャーニーから学んだ教訓が書かれています。

 

最新のホワイトペーパーは、認知症の人のPXを高める内容です。日本でPXに取り組むうえで参考になるものがたくさんあります。ホワイトペーパーの購読は、The Beryl Instituteの会員特典に含まれています。非会員も1冊29.95ドルで購入できます。

Link: https://www.theberylinstitute.org/page/WhitePapers

 

 

2.連載「Patient Stories」第28回 ピカソの絵からの回復


連載「Patient Stories」の第28回は、右目が下がってピカソの絵のような見た目になっていた女性のストーリー。長年にわたり我慢し続けた身体的、精神的苦痛から解放されたときの喜びを想像してしまいました。医療の進歩とチームの力の偉大さを改めて考えさせられます。

 

☆2人の“ロックスター”のコラボレーション手術

Janet Biscottiさんの右目はとても潤っていました。時間の経過とともにひどい頭痛と視界の変化を経験しました。眼科医のところに通院し、点眼薬を使用しました。右目の位置が左目と同じ高さでなくなったとき、クリーブランドクリニックのCole Eye研究所で医師と面会しました。

「甲状腺疾患により目が膨らむ可能性があるため、検査を受けました。私はがんで死ぬのだ、と恐怖を感じました。その後、何年もこの状態だった事実を考え、もしがんだったらずっと前に死んでいただろうと考えました」とJanetさんは振り返ります。

2006年に眼窩腫瘍と診断されました。当時、腫瘍を切除する選択肢は侵襲的なものであり、Janetさんは手術により永久にもとの外見を失ってしまう可能性がありました。良性腫瘍だったため、手術は推奨されませんでした。

数年後、Janetさんはクリーブランドクリニックの病理学者である夫のCharlesさんと医学会議の夕食会に参加したとき、カナダの眼科医が彼女の目の状態をたずねたうえで、低侵襲の手術の選択肢があると伝えました。クリーブランドに戻り、同クリニックの Rose Ella Burkhardt脳腫瘍&神経腫瘍センターの神経外科医Pablo Recinosさんに予約を入れました。Pabloさんは顔や副鼻腔の近くで生じる脳腫瘍を伴う頭蓋底手術を専門としています。

「Janetさんの目は、見て怖いと思えるものでした。眉を介した低侵襲によるアプローチで、非常に簡単に腫瘍に到達できることがわかりました。しかしそのアプローチでは、目の“屋根”となる骨を分解し、頭蓋骨を切る必要があるため、再建手術が必要になります」

2017年5月11日、Janetさんは6時間半にわたる手術を受けました。腫瘍を摘出すると同時に、同クリニックの頭頸部研究所のMichael Fritzさんは、肋骨の一部と大腿筋膜の皮弁を摘出。Michaelさんはこれらを使い、Janetさんの目の上部のふちと屋根を再構築しました。

Janetさんは手術後わずか2日で自宅に戻りました。数日後、クリーブランドクリニックのIndependence Family Health CenterでMichaelさんは外科用ドレーンを取り外しました。

「2人の医師は、つまるところ“ロックスター”です。コラボレーションは素晴らしい。チームとして本当にうまくいきました」とJanetさん。

Janetさんの頭痛はすぐに消えました。顔面の右側にいくらかのしびれがありましたが、時間の経過とともに改善しました。右目と頬は左より少し膨らんでいましたが、半年以内にほかの人と変わらないように見えました。

「Janetさんを初めて見たとき、ピカソの絵の人物のように見えました。右目は左よりかなり下に落ちていました。腫瘍摘出と再建を組み合わせた手術により、Janetさんの外見を回復し、ヨガやピラティスなど彼女が好きなことができる能力を取り戻すことができました」とMichaelさん。「Janetさんの手術の手技は、最小限の身体的負担でできるものであり、同じような腫瘍をもつ患者にとっては大きな変化です」

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/353-surgical-treatment-of-benign-tumor-restores-patients-appearance-and-quality-of-life

 

3. 今後の予定


福岡市で2月29日(土)に開催される「日本医療マネジメント学会 第19回福岡支部学術大会」で、PXについてのシンポジウムを行います。

日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会からは代表理事の曽我香織さん、世話人の井村洋さん(飯塚病院特任副院長)、西本祐子さん(国立病院機構九州医療センター小児外科医長)、小松良平さん(松下記念病院看護部看護師長)が登壇予定です。奮ってご参加ください!

https://www.19jhm-f.com/

 

当研究会では勉強会を3年間、東京で定期開催していましたが、2020年は「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していきます。

内容は、PXの初歩的な話と実践事例(事例はスピーカーによって異なります)の紹介です。年10回程度を予定しており、日時、場所は決定次第、当メールマガジンやホームページでお知らせします。自分の医療機関や地域で寺子屋を開催したいというご要望にもお応えできればと思っていますのでぜひお声がけください。

https://www.pxj.or.jp/events/

※研究会員の方が対象です。地方開催の場合は交通費をご負担いただきます

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


東京都現在美術館で開催中のファッション・テキスタイルの展示を見に行きました。布の山に、ただただ興奮しました!(F)