日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.95

1.PXを改善する「EBCDツールキット」
2.連載「Patient Stories」第33回 「神経の記憶」を刺激するデバイス
3. 今後の予定

1.PXを改善する「EBCDツールキット」


さまざまな業務の改善にはツールが活用されていますが、PXにおいてもアメリカやイギリスなどでは改善のためのツールが開発・活用されています。今回はその1つ、イギリスのポイント・オブ・ケア財団が提供する「EBCD(Experience based co-design;当事者の経験に基づいた協働設計)ツールキット」を紹介します。

 

EBCDは当事者が経験した内容を伝える、トリガーとなる動画の視聴によって改善活動につなげるというものです。イギリスでは臨床現場で使われており、「EBCDツールキット」はキングス・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)やキングスカレッジ病院などで実施された、患者中心のケアプロジェクトからつくられました。NHS(National Health Service;国民保健サービス)のPXプログラムディレクターなどによって開発されています。

EBCDツールキットでは詳細な患者インタビューと観察、グループディスカッションを通じて、現場における患者とスタッフの経験を集めたうえで、重要なタッチポイント(接点)を特定します。患者とスタッフの態度や意見ではなく、エクスペリエンスとそれによって生じた感情にスポットを当てます。患者とスタッフがそれぞれ改善すべき点を挙げ、優先順位をつけたうえで実行していけるようになっています。

このツールでは最初に、EBCDとは何か、自分自身にとってのEBCDを考えたうえでプロジェクトチームを結成。インタビューするスタッフと患者を選び、患者へのインタビューおよび動画を撮影します。スタッフ、患者それぞれにフィードバックしたうえで、スタッフと患者が一緒になってEBCDを取り組むという流れです。

2013年の調査では、イギリスのほかオーストラリア、カナダ、オランダ、スウェーデン、アメリカなどの60以上の医療機関でEBCDを使ったプロジェクトが実施もしくは計画されたとのことです。同年にリリースした改訂版のEBCDツールキットは、60以上のEBCDプロジェクトにかかわったスタッフと患者からのフィードバックが組み込まれています。詳細は下記リンクをご参照ください。

Link: https://www.pointofcarefoundation.org.uk/resource/experience-based-co-design-ebcd-toolkit/

 

 

2.連載「Patient Stories」第33回 「神経の記憶」を刺激するデバイス


「Patient Stories」も第33回となりましたが、さまざまな疾患や事情を抱えた患者さんがいることに気づかされます。個々のニーズに合ったケアが、PXが必要とされる理由がここにあります。今回は、正常に歩けるようになりたいとの希望をもって、ロボットデバイスを使ったリハビリテーションを行う女性の話です。

 

☆ “使うのか失うのか”の研究

56歳のKathy Miskaさんは歩行能力に壊滅的なインパクトを与える多発性硬化症(MS)と闘っています。理学療法(PT)で外骨格に取りつけるロボットデバイスが、彼女の歩行を助けています。

Kathyさんは20年前にMSと診断され、近年は時が経つにつれ症状が悪化していました。MSのためのクリーブランドクリニック・メレンセンターで、リハビリにおけるEksoGT™搭載の外骨格の有効性を評価する研究に参加する5人のMS患者の1人です。「(EksoGT™によって)歩行速度と持久力がアップし、歩行がより正常になり、脚が脳からのシグナルを断続的に受信できるようになります」とKathyさん。

「PTの一部として外骨格を使うというのは、患者が自力で歩くことができない場合によりよい結果を達成できるアイデアです」とクリーブランドクリニックの物理療法・リハビリテーション部門のの主任研究者である Francois Bethouxさんは言います。「筋肉のように、神経系を“使うのか失うのか”。患者がデバイスを使用していないときでも歩きやすくすることが目標です」

8週間にわたって24時間のトレーニングセッションを終了したKathyさんは「姿勢が良くなり、歩行が改善されました。うまくいけばデバイスは私の歩行を強くするでしょう。励みになります」と語ります。

Kathyさんを担当する理学療法士の1人、Matthew Sutliffさんは彼女の改善を証言します。

「彼女は右脚に多くの弱点がありますが、左脚は少し強くなっています。適切な歩行を教えるために、右脚をかなり強くサポートするようにデバイスをプログラムしました。継続するにつれ、右脚への支援を徐々に減らし、彼女の筋肉がより多く動くようにしました」

外骨格が患者のために動くことを意図したものでなく、「神経の記憶」を刺激することで筋肉が最終的に脚を動かすことを引き継げるようにすることが目的です。「脳は常に私たちの行動に適応しています。継続的に繰り返すことで、脳内の神経回路を再配線し、より自然に、安全に歩けることが期待されています」

研究結果は2020年に公開される予定です。

 

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/355-robotic-device-may-make-walking-easier-for-multiple-sclerosis-patients

 

3. 今後の予定


⭐︎当研究会では勉強会を3年間、東京で定期開催していましたが、2020年は「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していきます。

内容は、PXの初歩的な話と実践事例(事例はスピーカーによって異なります)の紹介です。年10回程度を予定しており、日時、場所は決定次第、当メールマガジンやホームページでお知らせします。自分の医療機関や地域で寺子屋を開催したいというご要望にもお応えできればと思っていますのでぜひお声がけください。

https://www.pxj.or.jp/events/

※研究会員の方が対象です。地方開催の場合は交通費をご負担いただきます

⭐︎オンラインによるPX勉強会の開催を検討しています。詳細が決まりましたらメールマガジン等でお知らせします。

 

※福岡市で2月29日(土)、PXについてのシンポジウムを予定していた「日本医療マネジメント学会 第19回福岡支部学術大会」は新型コロナウイルスの影響で開催中止となりました

 

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

編集部から


新型コロナウイルスの感染が広がり、イベントなどが中止になっていますね。少し前に、友人たちとライブに行ってきました。いい音を聴き、癒やされました!(F)