日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.104

1. COVID-19でのコミュニケーション改善ツール
2.連載「Patient Stories」第40回 5%の確率により力いっぱい生きる
3. 今後の予定

※次週メールマガジンはお休みです。次は5月14日(木)配信となります

1.COVID-19でのコニュニケーション改善ツール


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、標準予防策の徹底を図る必要があるためアイシールド、サージカルマスク、フェイスガードなどのPPE(Personal Protective Equipment;個人防護具)の着用が欠かせません。そのため患者と医療スタッフとのコミュニケーションが図れず、双方とも孤立しがちとなってしまいます。

コミュニケーションの障壁に打ち勝つためのツールとして、英NHS(National Health Service;国民保健サービス)の医師が無料のオンラインフラッシュカード「CARDMEDIC」を開発しました。

CARDMEDICはパンデミック時に医療スタッフが重症患者または聴覚障害のある患者に対して重要な質問をすることができます。やり取りは「Hello my name is……」の自己紹介から始め、A to Zのインデックスから聞きたい内容を選んで問いかけ、返答は重要な情報として共有できます。読み上げのオプションを使うことで視覚障害など字を読むことが苦手な人もサポートします。また、CARDMEDICは医療スタッフが通常の診療の範囲外で働くよう再配置された時の、実践的で便利なスキルアップのトレーニングツールとしても役立つといいます。

フラッシュカードは患者や病院の電話、タブレット、スマートデバイスのいずれかで電子形式で使用でき、印刷、ラミネート、注釈付け、書き込みや拭き取りをして再利用できます。

CARDMEDICを開発した、Brighton and Sussex大学病院の麻酔科医Rachael Grimaldiさんは「医療スタッフがペンと紙を使って患者とコミュニケーションが取れるのかを疑問に思っていたところ、72時間以内にデジタルのフラッシュカードのA to Zのインデックスにとって代わりました」と話します。

CARDMEDICはイギリスのほか米国、アフリカ、アジアの病院ですでに利用されています。現在10ヶ国語に対応しており、今後30カ国語で提供するとしています。下記サイトから無料でダウンロードできます。コミュニケーションおよびコミュニケーションツールはPXを考えるうえで欠かせないものです。日本語への対応を期待したいところですね。

CARDMEDIC https://www.cardmedic.com/

 

Link:https://www.theguardian.com/world/2020/apr/25/uk-doctor-invents-digital-flashcards-to-help-covid-19-patients-understand-staff

 

2.連載「Patient Stories」第40回 5%の確率により力いっぱい生きる


今回の「Patient Stories」はわずか5%の生きるチャンスを得た少女が主人公です。彼女を支えるクリーブランドクリニックのスタッフは、呼び出しボタンが押されたら5秒以内に駆けつける準備ができているとのこと。同院のPXの高さをうかがえるエピソードです。

 

☆ どんな時でも5秒以内に駆けつける

Jillian Arnoldさんと夫のKevinさんは2組目の双子を妊娠していました。28週目の超音波検査の予約時に医師から、娘の1人であるJacobyさんが重大な病気であると伝えられました。Jacobyさんは身体の2カ所以上に異常な量の体液が蓄積する非免疫性胎児水腫と診断されたのです。胸腔と皮膚の層に液体が溜まり、深刻な浮腫を引き起こしていました。彼女が出産してくる確率は5%、さらに生まれてから生き残る確率は5%でした。

Arnoldさん夫妻は、双子のもう1人の健康なJennaさんの命を危険にさらす可能性があるため医学的な英断が望めないと知り、完全に気持ちが押し潰されてしまいました。「私は喜びに満ちてJennaのために必要な母親になるための準備に頭を悩ませるとともに、Jacobyの死を悲しむ準備ができていました。出産に至るまでの数週間、母親が本来受ける必要のない、最も厳しい知らせでした」とJillianさんは思い起こします。「私は体調を崩してしまい、望むより早い出産をすることになりましたが、それによってJacobyに闘うチャンスを与えられたと信じています」

2013年6月1日、Jillianさんはわずか31週で出産しました。出産直後、看護師がクリーブランドクリニックチルドレンのNICU(新生児集中治療室)に連れてきたJacobyさんとKevinさんは対面しました。医師はJacobyさんの呼吸と肺の発達を妨げていた体液を体外に出すために胸部チューブを挿入しました。体内の余分な水分を出すなど注意を払いながら順調に経過した数カ月後、医師はArnoldさん夫妻に、Jacobyさんは今もNICUで最も重症の子どもであることを伝えました。その後数週間、Jacobyさんは気管切開や呼吸を助けるための胸部チューブの挿入、2つの手術などに耐えました。JacobyさんはNICUとクリーブランドクリニックチルドレンのリハビリ施設で16カ月過ごした後、ついに家に帰ることができました。

「子どもに緊急ボタンを押す必要がある出来事が起きたとき、いかなる場合でも5秒以内に病室に駆け込む準備ができている多くの人たちのことを説明するのに十分な言葉が見つかりません。彼らはいつでも信じられないほど素晴らしく、同時に圧倒的なスキルを備えています」とJillianさん。「外科、呼吸器科などすべての医師、看護師、セラピストは本当に、地球上でのJacobyの守護天使なのです」

JacobyさんとJennaさんは6歳。Jacobyさんは活き活きとしていて元気いっぱいです。自分で呼吸ができるようになり、歩くための装具を外しました。ほとんど話せませんが、毎日新しい単語を学び、手話でコミュニケーションをとっています。小児病院協会のスピーキングイベントで代表としてワシントンDCに行ったこともあります。Jillianさんは「あらゆる困難を乗り越え、生きるための究極の闘いをしているJacobyのパワフルなジャーニーを共有できる素晴らしい機会を持ち、とても幸せで光栄だと思っています」と語ります。

 

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/58-the-little-girl-that-refused-to-quit

 

3. 今後の予定


PX研究会では勉強会を3年間、東京で定期開催していましたが、2020年は「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していきます。

内容は、PXの初歩的な話と実践事例(事例はスピーカーによって異なります)の紹介です。新型コロナウイルス感染症が収束した段階で開催を決めたいと思います。日時、場所は決定次第、当メールマガジンやホームページでお知らせします。自分の医療機関や地域で寺子屋を開催したいというご要望にもお応えできればと思っていますのでぜひお声がけください。

※研究会員の方が対象です。地方開催の場合は交通費をご負担いただきます

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オンラインによる勉強会、「第2回PX寺子屋」を開催します。

6月20日(土) 13:00-14:00

※Zoom(Web会議ソフト)での開催となります。参加者にはリンクをお知らせします。

※研究会会員は無料、会員外の方は有料(1000円、事前に参加費の振り込みをお願いします)。申し込みは下記リンクからお願いします。

Link: https://www.pxj.or.jp/events/

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

編集部から


風をきって走るのが清々しい季節になりました。STAY HOME週間は朝起きて軽く筋トレして、天気がよければ近所をランニング。京都マラソンの参加賞のネックゲイターをマスク代わりに使っていますがこんなことで役立つとは思ってもみませんでした。(F)