日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.289

1.EX講座を開催
2.小児患者のPXにおける家族の関与
3.今後の予定

1.EX講座を開催


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会は5月25日、「ゼロから学ぶEX講座」をオンライン開催しました。

EX(Employee eXperience;従業員経験価値)は、従業員が組織で働くうえで得られる体験であり、2015年ごろから認知されてきた概念です。海外の医療機関でもEXは注目されており、PX(Patient eXperience;患者経験価値)を高めるためにも重要だとされています。日本の医療機関においてはEXに関する知見が十分得られていないことを受け、PX研究会では昨年初めて講座を開きました。今年は2日間に分けて、基礎および実践的な内容を学べるプログラムとなっています。

1日目となる25日は、「EXとは何か」「EXを可視化する」「EXを改善する」の3つのポイントについて、講師であるPX研究会の運営メンバーが解説。いくつかのテーマについて、参加者で話し合いました。

「PXとEX、どちらを優先させるか?」というテーマでは、「まずはPXについて理解を深め、改善につなげることでEX向上につながる」といったPXに先に取り組むといった意見、「職員が疲弊しているなかでPX向上の土台が失われている。まずは職員満足度を上げることが必要」というEX優先の考えなどが出ました。

PXを測るのと同様に、EXにおいてもサーベイを実施することになります。PX研究会では、海外での状況をリサーチしたうえで独自のサーベイを作成していますが、「自施設でサーベイを行うとしたら、どのような設問を入れるか?」という意見交換では、多職種連携を評価したり、多様な働き方・価値観ができているかを確認したりする設問が挙げられました。

EX改善については、組織エンゲージメントを高める必要性や職員の評価およびフィードバックのあり方、コミュニケーションの大切さなどの指摘がありました。

6月1日に開催する2日目についても、次週のメールマガジンでご報告します。参加申し込みはすでに締め切らせていただいています。PX研究会のEXサーベイについて興味のある方は、下記リンクをご確認ください。

Link:https://www.pxj.or.jp/exsurvey/

2. 小児患者のPXにおける家族の関与


患者が子どもの場合、小児医療におけるケアの中心は家族が担うことになり、PXにも大きくかかわります。米国マサチューセッツ州にある、家族主導の非営利団体Family Voicesは、「すべての子どもたち、青少年、家族、特に特別な医療ケアを必要とする子どもたちや障害のある子どもたちが、最高の健康と生活の質を体験できるようにする」をヴィジョンに掲げています。特別な医療ケアを必要とする子どもたちの家族を、ケアに影響を与える政策、実践、プロセスの開発・変更など、システムレベルの変革に参加させる取り組みを行っています。その際に重要な役割を果たしているのがファミリー・アドバイザーですが、健康の公平性が重視されているなかで、多様性への評価やアセスメントなどが問題となっており、次のような視点を医療者は持つべきだとされています。

★トークニズム

トークニズムとは建前、体裁主義と訳されるもので、「見かけ上、公正に見せようとするために、社会で不平等に扱われているグループにアドバンテージを与えるふりをすること」です。一人のファミリー・アドバイザーがコミュニティ全体のニーズを代表する役割を担うことがないように、大規模な文化コミュニティに影響を与えるような取り組みを行っている場合には代表者の少ないグループの複数のメンバーから代表者を出すといったことを行い、複数の視点が得られるようにします。

★パターナリズム

パターナリズムは、プロジェクトの最後に家族からのフィードバックを求め、家族のいないところですでに策定された計画やプロセスに対する家族の視点を含めるといった形で現れます。フィードバック・モデルは、専門家が答えを持っており、最後に少し調整すればよいという前提に立っているためです。プロセスの初期段階から家族を巻き込む共同デザインによって、家族は問題を特定し、可能な解決策を考え、その解決策をテストし、結果を広める手助けをすることができます。

★家族参加の評価

家族とともに方針やプロセスを作り上げるということは、家族もそのテーブルにつくということです。家族がどの程度関与しているかは、多くの場合、意見や推測の域を出ません。ヘルスケアのリーダーたちは、自分たちが家族とうまくいっていると感じているかもしれませんが、それを確かめるのは難しいことです。そのために評価ツールがあり、Family Voicesが開発した評価ツールでは、医療機関が自分たちの仕事におけるファミリー・エンゲージメントを評価するのに役立ちます。コミットメントと透明性から影響力まで、家族参画と能力開発の改善プロセスを評価することができます。

Family Voicesでは、家族参画を評価するためのエビデンスに基づく無料ツールを開発するなど、さまざまなプログラムを公開しています。詳細は下記リンクからご確認ください。

Link:https://familyvoices.org/

3. 今後の予定


2024年度のPXE6期生の募集を開始しました。全5回で、PX概論からペイシェントジャーニーマップの作成、PXに欠かせないコミュニケーションなどを学ぶことができます。PXE同期、卒業生とのネットワークにより、PX実践につながる交流も図れます。

医療者だけでなく企業勤務の方も受講可能です。申し込みは下記リンクからお願いします。https://www.pxj.or.jp/pxe6/

※6期からはPX研究会編著の書籍『ペイシェント・エクスペリエンスー日本の医療を変え、質を高める最新メソッド』(三輪書店)をテキストとして使用しますので、受講生の方は下記から各自でご購入をお願いします。

三輪書店オンラインショップhttps://shop.miwapubl.com/products/detail/2713 

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4895908062?ref_=cm_sw_r_cp_ud_dp_TQ04SWYRV6624N0S4X4K 

※全国の書店でも購入できます。

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株式会社スーペリアでは、6月21〜22日に福岡市で開催の「第26回日本医療マネジメント学会学術総会」において、22日12:25~13:15まで、ランチョンセミナーを企画。国内の好事例を示しつつ、医療従事者のEXやワークエンゲージメントを高める働き方改革の実現について話し合います。テーマは、「『医師の働き方改革』を考えるーPX/EX の視点で働き方改革をデザインするー」。6月5日まで事前予約を受け付け中です。

LINK;https://www.congre.co.jp/jhm2024/registration/index.html

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スーペリアでは、医療従事者を対象とした「働きやすい職場づくりのための実践的医療コーチング体験会」を企画しました。チーム医療やPXに関してはもちろん、医療現場でコーチングが求められている背景などもお話しします。ご関心のある方は、ぜひご参加ください。

日時:2024年6月15日13:00~15:00(12:45頃より入室可能)

講師:安藤 潔(東海大学医学部血液・腫瘍内科客員教授)

開催形式:オンライン(Zoom)

対象:病院、クリニックにお勤めの医療従事者 ※管理者を想定した内容となります

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

編集部から


東京都現代美術館で開催中の「翻訳できないわたしの言葉」という展示を観に行きました。日本在住が長く、フランス国籍を持つのにきれいなフランス語の発音ができない人、自身のルーツであるアイヌ語を学んでいる人、手話が第一母語だが音声言語で話すことを求められる人、身体活動を仕事としてきたのにALSで表現能力に限りがある人…。言語や表現について学びが多かったです。 (F)