1.PXを定義する
2.看護のバーンアウトとPX
3. 今後の予定
1.PXを定義する
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会ではPX(Patient eXperience;患者経験価値)を、「患者が医療サービスを受けるなかで経験するすべての事象」と捉えていますが、世界共通の定義は実はありません。PXについて、個人や医療機関によって多様な考えが存在するからです。米国のPX推進団体、The Beryl Instituteが発行するオープンアクセス・ジャーナル「Patient Experience Journal」(PXJ)に投稿された、PXの定義についての考察を紹介します。
記事では、世界の医療機関で使用されているBeryl InstituteのPXの定義「pxとは一連の(ケアだけにとどまらないインタラクション(かかわり)の総和であり、それらは組織の文化によって形成され、患者の捉え方に影響をあたえる」を示したうえで、「実用的な定義として推奨するには根拠が不足する」と指摘。研究や品質改善の取り組み、および一般的な医療行為に適用可能で、実用的なPXの定義を特定することで、ヘルスケアにおけるPXの取り組みが今以上に効果的になるのではないかとしています。
PXを定義づけするためのリサーチを行った目的として、以下の3つを挙げています。
1.既存のPXの定義に共通かつ頻繁に引用されている概念、構成要因、テーマをみつける
2.これらを共有する可能性のある定義にする
3.見逃されている可能性のある、または、既存の定義をよりよくする、重要な概念をみつける
まず、PXの定義を扱っている2000~2014年までの文献からPXの定義、説明、概念を明確に示している18の資料に絞り込みました。
ピックアップした資料のなかで指摘されていることの1つに、「PXは単発的な出来事ではなくて、多くのタッチポイントに影響される」があります。PXは単なるケアではなく、医療機関にコンタクトをとった時から退院後までの患者のエクスペリエンスの合計であり、それにはスタッフや組織文化のかかわりが重要であり、医療的行為にかかわらないことも含まれると述べられています。
また、患者中心性のケアに重点を置いているものもありました。スタッフの有能さ、質の高いケア、個々に対応したケア、タイミング良く反応すること、ケアの調整力(コーディネーション)、信頼的で適切な対応などの要素が、患者中心のケアを構成しているとしています。そしてPXとは、医療機関のブランド力、スタッフとかかわる際に起きるできごとによって影響を受けるといいます。 別の資料では、組織内の全スタッフがPXにかかわっており、患者中心のケアに尽力し、PXを向上させることは患者満足度のデータやHCAHPSの改善がみられると述べています。複数の資料ではPXの重要な項目として、患者や家族の精神的なサポート、患者・家族・友人の積極的な関与、コミュニケーションなど個人に注目した定義が示されていました。
ある資料では、PXの測定はWHOの用語である「responsiveness(応答性)」を捉えることが目的であり、PS(Patient Satisfaction;患者満足度)以上であり、同等に扱うものではないと指摘。HCAHPS(Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems;米国のPXサーベイ)やPS調査のような単純な測定以上の調査を行う必要性があるとしています。さらに、PXをよりポジティブに提供するため、▽個人に対応した医療を提供すること、▽患者と協力すること、▽従業員を力づけること――の3つを提案しています。
このリサーチでは、結果として共通したPXの定義を見出すことにはいたっていません。しかし共通の概念(身体で感じる体験、個人的なかかわり、連続性、組織/カルチャーにより形づくられること、患者の積極的な参加の重要性、知覚、情報、反応性 )の存在や、テーマ(PXはPSに限らない、調査の結果だけにとどまらないことの必要性、一連のケア、期待値に注目すること、個々に対応したケアやサービス、PXは患者中心のケアの原則に沿ったものであること)を確認することができたといいます。
記事は下記からダウンロードして読むことができます。
Link:https://pxjournal.org/cgi/viewcontent.cgi?article=1004&context=journal
2. 看護のバーンアウトとPX
看護の専門誌『看護実践の科学』2021年6月号に、日本PX研究会の運営メンバーで訪問看護ステーションアクティホームの事業責任者である講内源太さんの寄稿が掲載されています。
「看護と職場のストレスを考える」という特集のなかで、「バーンアウトから考える訪問看護師のストレスケアーPXをふまえた一訪問看護事業所の取り組み」について述べています。寄稿は、▽PXの考え方、▽PXとEX(Employee eXperience;従業員経験価値)の関連性、▽バーンアウトとは?、▽看護で着目する理由、▽調査概要、▽アンケート結果から読み取れること、▽働きやすい職場を考える、▽当事業所の考え方、▽個人依存を解く、▽定期的な面談の実施――の構成となっています。
日本版バーンアウト尺度(17項目)を用いたストレスの実態調査についても触れられています。調査で回答が多かった上位7項目を「個人的達成感」「情緒的消耗感」に分類したうえで、バーンアウトの要因から働きやすい環境づくりについて考察。目指すべき職場像として、「利用者の課題解決に関して、個人に依存をさせない仕組みをもつ」「個人の課題と達成度を定期的に確認しつつ、個々のスタッフに応じた『役割』を明確にお願いする」を挙げています。講内さんは、「スタッフの基盤を整える時間配分や面談、日々のコミュニケーションこそが、利用者のPXを高め、ひいては利用者や家族の生活を支え、地域の資源として活用されるための一端を担っていると考えている」としています。
個々に応じた対応の重要性は、上のPXJの記事でも指摘されていますね。EXとPXとの関連性や看護職の働き方についての知見を深めることができます、ぜひご一読ください。
Link:http://www.kango.co.jp/magazines
3. 今後の予定
PX研究会では12月4日(土)に「第4回PXフォーラム 変革から成熟へーWithコロナ時代のPXがもたらすものー」をオンラインで開催します。PX研究会会員(法人・個人)は無料。会員外の方は第1・2部で3000円となります。第1部、第2部のみ(各1500円)参加も可能です。フォーラムの詳細と申し込みは下記リンクからお願いします。
https://www.pxj.or.jp/pxforum2021/
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第5回寺子屋を8月21日(土)に開催します。詳細は決まり次第、PX研究会ホームページと当メールマガジンでお知らせします。
第5回PX寺子屋
・日時:2021年8月21日(土)13:00-14:00
・テーマ:「PX概論」ほか
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
辛いもの好きなのですが、ついに「蒙古タンメン中本」の本店に行きました。もちろん北極ラーメンをオーダー。辛さだけでなくうまみもあり、おいしくいただきました。しかしなぜ「北極」なのか……寒いところで食べても身体が温まるほど辛いってことでしょうか。(F)