1.医療安全とPX
2.EXをサポートする5つの方法
3. 今後の予定
1.医療安全とPX
PX(Patient eXperience;患者経験価値)は患者中心の医療サービスの提供をめざしたものであり、PX向上によって平均在院日数、投薬ミスの減少といった医療の質改善につながるとされています。ヘルスケア関連のマルチプラットフォームメディアHealthLeadersの記事では、医療の安全性、インシデントとPXとの関連について言及しています。
患者視点を考慮することにより、医療の安全性と質向上の取り組みにさらなる価値が生まれる――。PXはインシデント対応と質改善、患者中心のケアにおいて重要な要素です。シカゴを拠点とし、医療の質改善の活動を行う非営利団体Project Patient CareのPat Merryweather-Argesさんは「PXを定義するときに最も重要なのは患者の視点です。さまざまなレベルがありますが、PXを生み出すのは1対1の出会いであり、PXをより幅広く理解するためのサンプリングツール、もしくは調査ツールが必要かもしれません」と話します。
Patさんはインシデントが発生した際に、PXが重要な役割を果たす可能性についても指摘します。「PXは患者が被害を受けた際に非常に価値があります。なぜなら患者は診断を見逃した、何も聞いていなかった、もしくはほかの要因があったといった批判ができるからです」
またインシデントが発生した場合に、PXはケアチームやその他の医療関係者のモチベーションを高めることができると、医療に関する品質管理の資格認定を行っているNational Association of Healthcare QualityのCEO兼エグゼクティブディレクターであるStephanie Mercadoさんは指摘します。「PXを取り入れることで安全についての出来事を、人間味のあるものにすることができます。また、プロセスに焦点を当て、どうやって改善を達成できるかといったことに非常にストレートにアプローチすることが可能です。重大な医療ミスで患者の視点を持ち込むことは感情的になってしまいますが、その感情は医師やステークホルダーの心とマインドを医療の大義に向けて動かすことができるのです」
事故対応のプロセスにPXを含めることは、医師やステークホルダーが何がうまくいかなかったのか、どれほどひどいものだったかを反芻する機会となります。
そして、患者の安全に関するインシデントが発生した場合、多くの患者とその家族は対応に関与したいと考えています。「患者は医療の質改善に貢献したいと考えています。非常に大きなダメージを被った場合に、ほかの患者にもインシデントが発生しないように、と決意をもってコミットメントします。患者とその家族が医療機関とともに、状況を改善することで、ケアチームなどの医療関係者はやりがいのあるところに身を置くことができます」とStephanieさん。
ただし、「慎重かつ意図的に取り組む必要がある」とPatさんは言います。「危害を加えられた患者やその家族の心が治癒し、その経験を生々しく感じないようにするには一定期間が必要です。インシデントが発生した場合、医師は改善に向けて学ぶ際に患者や家族から教わるのが最適ですが、その過程でしばしば追体験することになり、非常に感情的になってしまうことがあります。変化へのコミットメントがある限り、彼らは起こったことを大目に見てくれます」
「PXを品質改善に、率先して含めるべき」とStephanieさんは話します。たとえば病院が、プライマリケアの実践として、何かを改善したいと判断した場合は患者に意見を求め、患者の視点を得るためにかかわることが有効だとしています。Patさんは「その際に重要なのは、患者は単なる相談役や承認者ではないということ。彼らは変化へのコミットメントを望んでいて、そのために自分の時間と経験を費やしているのです」
2. EXをサポートする5つの方法
医療機関ではバーンアウト(燃え尽き症候群)が蔓延しています。この2年間は紛れもなく困難な時期で、スタッフやチームは疲労感、不安感、怒りなどを強く感じています。PXやCX( Customer eXperience;顧客体験価値)について語るとき、多くの場合、消費者に焦点が当てられます。しかし、これらの相互作用は双方向であり、スタッフに対してももPX、CXとの同様に、EX(Employee eXperience;従業員経験価値)が重要であると認識することが重要です。米インディアナ州のソフトウェア企業AuthenticxのCEOであるAmy Brownさんの寄稿を紹介します。
最近のUSA Todayの世論調査では、医療従事者の25%が「仕事を辞めたい」と答えています。当社のデータでは、医療機関のコールセンターで働く人々は、対応するために訓練された以上の顧客の苦痛、トラウマ、恐怖に直面していることが示唆されています。私たちは、2020年のカスタマーボイスレポートで、スタッフの共感と実際のセンチメント分析(SNSへの書き込みの個人の感情を分析する手法)のスコアが、理想的な品質保証のベンチマーク指標を下回っていることを示唆し、これらの知見のいくつかを紹介しました。
医療における患者とのやり取りは、しばしば単純な取り引き以上の意味を持ちます。多くの場合、患者は経済的苦境、死、失業など、非常に個人的な、時にはトラウマになるような状況に直面しており、スタッフはこれらの微妙な問題を自分で解決しなければなりません。このようなやりとりの激しさを説明するために、当社のInsights Analystの1人が最近話した事例を紹介します。
あるスケジュール管理担当者が、前日に娘が性的暴行を受けたという母親からの電話を受けたときのことです。その担当者はどう対応していいかわからず、CXに空白ができたことは明らかでした。この不幸な出来事は、代理店がサポートを提供し、サポートされていると感じられるようにするための感情的なトレーニングの必要性を浮き彫りにしています。
CX戦略を考えるうえで、バーンアウト、離職、欠勤、エンゲージメントの低下、カスタマー・サービスの質の低下に対処するために、スタッフのメンタルヘルスとパフォーマンスのニーズのバランスを取ることが重要です。会話型データは、患者や消費者の声に耳を傾ける明確な方法を提供し、なぜ、どこで燃え尽きが発生しているかを明らかにする衝撃的な方法を提供することができます。会話データは、コンタクトセンター、デジタルハブやウェブサイトのチャット機能、電子メール、テキスト、その他医療従事者と患者の間に存在するコミュニケーションのタッチポイントに存在します。
患者の考え、気持ち、認識から得られる豊富なインサイトに投資することは、患者と日々接するスタッフとの架け橋となるチャンスです。EXを重視し、その結果、PXを向上させるための5つの方法を考えてみましょう。
1.従業員が直面している障害について対話を始める
チームがどこで「行き詰まり」を感じているかを理解することは、スタッフからの苦悩のサインに管理職がより適切に対応するのに役立ちます。これにはスタッフが保護され、サポートされていると感じられるようにするためのポリシーの見直しも含まれます。特に、デリケートな話題を扱う最前線のコール・エージェントはそうです。
2.優先順位をつけるためのガイダンスを提供する
患者と病院のコールライン間の会話(例えば、スケジュール管理など)を録音することで、メッセージ、コールスクリプト、手順など、どの分野で支援が必要かを知ることができ、スタッフが最高のPXを提供できるようになります。
3.現場で起きていることをリーダーが把握する
会話にアクセスすることで、スタッフが組織全体においてそれぞれの役割で直面している課題を明らかにすることができます。音声を直接聞くことで、スタッフのストレスの表現や具体的な不満の声を聞き出すことができるようになります。
4.コーチングの機会を見出す
役職に就いて力を発揮するためには、管理職が成長のための時間を割いてくれることが必要です。スタッフがどのように患者とかかわっているかを積極的に聞き、共有することで、コーチング、フィードバック、サポート、励ましを提供する機会を作ることができます。
5.従業員の優れた仕事に光を当てる
スタッフの燃え尽き症候群に対処する最も効果的な方法のひとつは、患者のために行われているよい仕事を継続的かつ純粋に評価することです。会話に耳を傾けることで、管理職は日常的なやり取りにおける感謝の表現について理解することができます。よいPXは、適切なケアを提供し、懸念に対処し、患者のニーズを評価するために重要な、パーソナライズされたユーザー体験の構築です。このようなアプローチは、EX向上にも活用することができます。
全文は下記リンクから読むことができます。
3. 今後の予定
日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では、「第5回PXフォーラム」を12月10日(土)14:00〜17:00に開催します。テーマは、「各国の取り組みから学ぶ ~グローバルにおけるPX~」。フランス「French Patient Experience Institute」のCEOであるAmah Koueviさんによる特別講演をはじめ、PXEの第3期生が各医療機関での取り組みを紹介します。参加料は会員は無料、非会員は3000円です。
詳細および申し込みは下記リンクからお願いします!
Link:https://www.pxj.or.jp/pxforum2022/
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「患者・家族メンタル支援学会 第6回学術総会」が11月12日、東海大学医学部松前記念講堂(神奈川県伊勢原市)で開催されます。PXをテーマにしたシンポジウムでは、日本PX研究会のメンバー、関係者などが登壇します。登壇者およびテーマは次の通りです。
1.医療の質とペイシェント・エクスペリエンス
青木拓也(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部)
2.日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動
曽我香織(日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会)
3.新型コロナ・パンデミックにおけるペイシェント・エクスペリエンス
小坂鎮太郎(練馬光が丘病院総合診療科)
4.ペイシェント・エクスペリエンスとコーチング
出江紳一(東北大学大学院医工学研究科リハビリテーション医工学分野)
当研究会理事で、学会長を務める東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科学教授の安藤潔さんによる教育講演「医療と対話」をはじめ、PXの学びにつながる内容となっています。
詳細は学術総会ホームページからご確認ください。
http://smspf.org/6th/index.html
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※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
少し時間がある時には、オフィス近くのファミリーレストランでさくっと夕食を済ませます。写真はラム肉のランプステーキとアスパラガス。物価高が言われていますが、日本はまだまだお財布にやさしい価格で外食できるのでありがたいです。(F)