日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.213

1.救急部門でのPX改善
2.第2回PXE養成講座
3. 今後の予定

1.救急部門でのPX改善


米ノースカロライナ州にあるNew Hanover Regional Medical Centerでは患者ケアの改善に向けたポリシーと手順を設定することで、最大限のサービス提供につながっているとしています。救急部門における取り組みについて、看護部門のシニアディレクターであるChristy Spiveyさんが話しています。

 

改善点としてChristyさんは2つあるとして、「医師の診察にかかる時間。もうひとつは、患者さんが診察を待つ間のPX(patient eXperience;患者経験価値)を管理すること」を挙げています。

救急診療科ではトリアージを行う看護師が患者をチェックし、チェックリストで病気やケガの程度を判断します。患者にタイムリーなケアを提供するため、30分ごとに患者のバイタルチェックと状態の再確認を行う専門の看護師を新たに採用・配置しました。「ロビーで患者を待たせする時間を大幅に短縮しました。また、医師が待合室で患者を診察してから指示を出し、治療や検査を進めるといったように診察のプロセスを改善しました」とChristyさん。診察を受けずに帰ってしまう患者の割合が大幅に減少し、救急外来の待ち時間が全体的に短縮しています。

また、トリアージプロセスの適用をリアルタイム、あるいは遡ってモニタリングするプロセスを導入しました。「特に、より複雑なケースを呈する患者さんや、見分けるのが難しい根本的な問題を抱えている患者の状況を確認しています。救急搬送されてきた患者の到着に焦点を当てることで、救急搬送の所要時間は大幅に短縮しました。トリアージプロセスを導入した2022年6月当時は80分かかることもありましたが、今では30分以内に救急車が到着するようになりました。患者さんが到着したときのタイムスタンプ(発生日時)を一定に保つことが重要と考え、登録プロセスについても改善し、患者情報の収集につなげています」と話します。

17番街救急部門の医療ディレクターであるDe Winterさんも、最近起こったポジティブな変化について、「ロビーであろうと、救急車から降ろされた患者であろうと、患者がどこにいても診察と治療を始められるように、チームアプローチを採用したことが重要だと考えています。私たちの目標は常に、患者をできるだけ早く医療従事者の前に連れて行き、治療を開始することです。医師の立場から、この点について改善を図ることができたし、今後もその努力を続けていきます」と語っています。

 

適切な診察のスムーズな実施、待ち時間の短縮はPX向上につながります。下記リンクからニュース動画を見ることができます。

Link:https://www.wect.com/2022/08/25/leaders-novant-new-hanover-discuss-efforts-improve-patient-care/

 

 

2. 第2回PXE養成講座


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では8月20日、「第2回PXE(Patient eXperience Expert)養成講座」を開催しました。

 

PXEは、医療現場のPXを向上させる旗振り役として当研究会で養成しており、今年の第4期は42人が受講しています。第2回の講座内容は、「PXの評価と分析」。東京慈恵会医科大学総合医科学研究センターの青木拓也さんが講師を務め、PXとPS(Patient Satisfaction;患者満足度)の違い、PXの評価・分析方法の概要について解説しました。

PXについては第1回講座の概論で触れていますが、今回は医療の質の1つの要素である「患者中心性」とPXについて、さらに詳しく説明しました。海外でPXが医療の質の指標として浸透してきた背景として、PSが「測定尺度が標準化されていない」「信頼性・妥当性が担保されていない」といった問題点を指摘。PSが抽象的な「満足」を測定するアウトカム指標であり、具体的な課題の特定が困難であるのに対し、PXは具体的な「経験」を即知恵するプロセス指標であり、課題特定による質改善につながりやすいといった特徴に触れたうえで、「PXはPSの進化形」だと話しました。

また、PXの評価方法については、PX尺度を用いたサーベイ」による「量的アプローチ」と患者の言葉や観察による「質的アプローチ」の2つがあり、青木さんは「相補的なものとしてどちらも重要である」としました。また、実際にPXサーベイを行う際のよくある疑問への回答と分析手法の例をわかりやすく示しました。

 

講座では毎回エクササイズを盛り込んでいます。オンライン上でグループに分かれ、PXとPSの尺度項目の比較と、実際にPXサーベイを実施する際にどのような質問項目を追加したいかについて議論しました。

次回は9月17日に開催、国内でPXサーベイを実施する病院の事例を紹介します。講座の概要を当メールマガジンでレポートします。

 

 

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では、「第5回PXフォーラム」を12月10日(土)14:00〜17:00に開催します。テーマは、「各国の取り組みから学ぶ ~グローバルにおけるPX~」。フランス「French Patient Experience Institute」のCEOであるAmah Koueviさんによる特別講演をはじめ、PXEの第3期生が各医療機関での取り組みを紹介します。参加料は会員は無料、非会員は3000円です。

詳細および申し込みは下記リンクからお願いします!

Link:https://www.pxj.or.jp/pxforum2022/

 

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「患者・家族メンタル支援学会 第6回学術総会」が11月12日、東海大学医学部松前記念講堂(神奈川県伊勢原市)で開催されます。PXをテーマにしたシンポジウムでは、日本PX研究会のメンバー、関係者などが登壇します。登壇者およびテーマは次の通りです。

 

1.医療の質とペイシェント・エクスペリエンス

青木拓也(東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部)

2.日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動

曽我香織(日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会)

3.新型コロナ・パンデミックにおけるペイシェント・エクスペリエンス

小坂鎮太郎(練馬光が丘病院総合診療科)

4.ペイシェント・エクスペリエンスとコーチング

出江紳一(東北大学大学院医工学研究科リハビリテーション医工学分野)

 

当研究会理事で、学会長を務める東海大学医学部内科学系血液・腫瘍内科学教授の安藤潔さんによる教育講演「医療と対話」をはじめ、PXの学びにつながる内容となっています。

詳細は学術総会ホームページからご確認ください。

http://smspf.org/6th/index.html

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


マスク生活を機に歯列矯正を初めて約1年半。中盤に差しかかり、いわゆる「ゴム掛け」が始まりました。弾性のある小さなゴムを自分でつけるのですが、取り外しが大変だしゴムを引っかける装置が舌に当たるのでワックス(写真右)が大活躍。動物好きなのでゴムの入っている袋にゴリラが描かれていることがひそかなモチベーションになっています。(F)