1. 第23回勉強会開催
2. 〔連載〕各国のPXサーベイ~第21回 サウジアラビア・UAE(前編)~
3. 第1回PXフォーラム紹介(スペシャル企画など)
1. 第23回勉強会開催
10月6日に開催した、第23回勉強会の内容を報告します。
初めての参加者が複数いたこともあり、振り返りを含めて、曽我香織代表理事がPXについて説明しました。テーマは「患者中心の医療を実現するPX」。医療の質を構築する要素の1つに患者中心性があり、患者の意向・価値・ニーズを尊重することがイコールPXと解説。「患者さんとの対話・患者の物語を重視する医療こそ重要」とし、潜在ニーズを引き出すことがNBM(Narrative-Based Medicine)であり、PXだとしました。
また、世界各国のPXの取り組み状況を紹介。2006年からPXの部署を設置し、さまざまな取り組みを行っているクリーブランド・クリニックの事例を取り上げました。
厚生労働省が公表した「保健医療2035」で言及している「病気の根治」から「患者のQOL実現」といった保健医療のパラダイムシフトからも、患者視点の医療サービスであるPXの有用性を強調し、締めくくりました。
国立病院機構九州医療センターの西本祐子先生からは、日本初となる外来患者を対象とした日本版PXサーベイの実施報告がありました。
2018年6月に同センターで1000部を配布し、回収率は79.4%。分析方法のほか、設問別回答率などサーベイの結果についてデータを示しながら説明しました。病院全体、診療科別にPXスコアを出しており、「統計処理を行ったことで病院全体、各診療科で注力すべき課題を明らかにすることができた」と話しました。
西本先生は、以前実施した入院編日本版PXサーベイの実施報告について、国立病院機構のQC活動奨励表彰に応募したところ、「九州グループ最優秀賞」を受賞。11月開催の国立病院機構総合医学会で口演(全国最優秀賞選考会)することになっています。医療界でPXが着実に浸透しつつありますね。
勉強会のより詳細な内容については、日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会のホームページ「研究会開催レポート」に掲載します(近日中にUP予定です)。
2. 〔連載〕各国のPXサーベイ~第21回 サウジアラビア・UAE(前編)~
今号からは、中東のサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)のPXサーベイを紹介します。
サウジアラビアおよびUAEの病院において、患者の経験価値に大きく影響与える要素を特定することを目的に実施しています。それによってPX測定の推進と、よりターゲットを絞った医療の質改善の動機付けにするとという意図がありました。
PXサーベイの結果を紹介する前に、サウジアラビア、UAEの病院と欧米の病院との違いについて触れておきます。以下のようなことが挙げられます。
☆中東の病院環境では家族関係が大きな役割を果たす。一般的には欧米に比べて患者と家族とのかかわりが深く、家族の存在感が大きい。
☆宗教的理由により、患者が持参した食べ物を病院で食べることが多い。
☆看護師という職業が価値のあるものとみられていないため、看護師の地位が低い。
PXサーベイはアメリカのHCAHPSをアラビア語に翻訳して使用、実施しています。文化の違いによって医療の提供方法は異なるが、PXについてはある程度一貫性があるとされているためです。
クイズは、患者のPXに大きく影響を与える要素についてです。次のうち、要素に含まれていないものを選んでください。
↓
↓
1. 食事と入院施設
2.家族への対応
3.看護師の対応
答えは次号で紹介します。
3. 第1回PXフォーラム紹介(スペシャル企画など)
PXフォーラムのスペシャル企画として、企画趣旨にご賛同いただいた企業とPXとのかかわりなどについて、3回にわたって紹介していきます。
今回は、多くの医療従事者が受講しているMBAビジネススクールを展開する、ヒューマンアカデミー株式会社University of Wales Trinity Saint David MBAプログラム事務局の山下允睦マネジャーと、受講生である医師の松本卓先生、日本PX研究会の曽我香織代表理事の3人に、医療界の現状とPX向上に向けた今後の取り組みについて語ってもらいました。
曽我 私はコーチをしていますが、NBM(Narrative-Based Medicine)の実現には対患者コーチングが有用だと考えています。医療者がコーチングマインドを備えることで、患者さん一人ひとりの背景や物語(ナラティブ)を引き出すことができ、患者ニーズを察知し、患者さんに合った医療サービスを提供することができます。医療者視点のプロダクトアウト的発想ではなく患者視点、すなわちマーケットインの視点が大事だと考えている医療者が中心となって日本PX研究会を運営しています。
松本 患者さん中心の医療という考え方に関心あり、医療現場にそのために必要な何かを持ち込める一助となればと思い、MBAビジネススクールで学び始めたところです。患者さんから必要なことを引き出すためにはノウハウが必要で、マーケティングを勉強することもその1つですが、そういったことを言う医師はあまりいなく、「いい医療技術を提供すればいい」という今までの職場の雰囲気に違和感を持ちました。
曽我 どういうタイミングでそのことに気づかれたのですか。
松本 自分の思う医療がしたいと思い、今年4月に大学病院を辞めて過疎地の病院で勤務することにしました。患者さんが少なく、距離も近い場所であれば実現すると思ったのですが、医療者側が一方的に診療を進めたり、専門分化した診療体制といった医療の構造は一緒。患者さんの求めることに添えば、自ずとすべきことは決まると思っていましたが、そういった発想で診療できなかったです。状況を打開することを考えたときに、MBAというキーワードに行き着き、働きながら学べるヒューマンアカデミーのスクールに入りました。
曽我 まさにPXの視点ですね。
山下 さまざまな医療界の課題は、医師不足に起因すると考えています。特に地方の病院は疲弊していて、どんな病院にしたいのかなどの組織運営を考える時間もない状況。課題を解決したいという意識を持った医療者が我々のところに来て学ぶ、そんなイメージです。MBA取得の課程では、医療全体を見たマネジメントや経営視点を持てるようになります。健全な経営が健全な診療を持続するためのコアになり、患者さんのためになっていくのではないでしょうか。
PXは結果という点ではなく、プロセスという線で医療を捉えると聞いたときに、1つの課題にフォーカスするだけでなく組織をうまく回す、循環させるという視点のMBAと親和性があると感じました。さらにPXを数値化すると聞き、そうすれば患者さんが病院を選ぶうえでの基準になると直感で思いました。統一した基準でレビューがあると、患者側としては非常にありがたいですね。
曽我 看護体制をはじめ、施設基準を公表している病院は多いですが、患者さんが施設基準を見たところで、良いのか悪いのかわからないですよね。PX向上に最も注力しているクリーブランド・クリニックでは、個々の医師を「食べログ」のように五つ星でレーティングしていて、患者さんはそれを見て医師を選び、診療を受けています。日本でもやってみたいですが、まずは日本版PXサーベイの結果を用いて病院のレベルを認定することから始めたいと思っています。
松本 素晴らしいですね。診察室はいわば密室で、本当はオープンにすべきです。ただ、医師の9割は個々のランキングには抵抗するのではないかと思います(笑)。
曽我 MBAに関連することとして、PXを高めるためには課題の仮説構築・検証したりロジックツリーを立てたりして、1つずつ解決していく能力も必要だと思います。「なんとなくこう思うから、こうしてみた」では、いくらお金があっても足りませんし課題が見えても解決できないのでは意味がありません。ロジカルな思考も重要です。山下さんの考え方、取り組みに共感しています。
山下 サーベイの結果が数値化され、ランキングが出たとしても改善につながらなければ説得力がなくなります。当スクールの講師陣は経営のスペシャリストがそろっているので、それこそ処方せん的なものを提供するといった形での協力ができればいいですね。
松本 医療者の多くは課題や問題意識がなく、あったとしてもどう解決につなげればいいかわからないと思います。ひどい話ですが、医師は食べるのに困らない資格を持っているので、低いレーティングでも成り立ってしまいます。日本の医療の現状に違和感を抱いた医師は海外に行くか、同じ考えを持つ仲間を集って活動していますがその場合、はぐれ者として扱われてしまうのでムーブメントにはなっていません。
MBAの話をしてもなぜ経営に行ったの? と聞かれますし、大学院に行くといったら基礎研究の大学院だと思われます。医療と経営は整合性があると思っていますが、そのように捉える医師は本当に限られていますね。
曽我 「はぐれコミュニティ」をつくるのはどうでしょう(笑)。「Show the flag」で旗を立てないと、はぐれ者もどこに集まればいいのかわかりません。そういったプラットフォームにPX研究会がなればいいですよね。ただし単なるはぐれ者の集まりではなく、PXサーベイの実施・研究などできちんとエビデンスも示して、将来的には診療報酬体制を変えることにつなげていきたいと思っています。
山下 せっかく変えてやろうと一歩踏み出した人がマジョリティに押しつぶされてしまわないように、フラグを立てた人をサポートするのが自分たちの役割でもあります。プラットフォームづくりのために何ができるかといえば、MBAを取得する医療者を増やすということであり、さっきも言いましたがPXとは本当に親和性が高いと思います。
組織論として「2対6対2」の法則がありますが「6」を動かすのが重要で、それには病院のランキングなどの数値化や取り組むことへのメリットを示さなければなりません。MBAだけでなくPXも広げる、そういったムーブメントづくりを一緒にしていきたいですね。
University of Wales Trinity Saint David MBAプログラム
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今回でPXフォーラムの演者紹介は最後となります。国立病院機構九州医療センター小児外科医長・メディカルコーディネートセンター副センター長の西本祐子先生です。
患者へのシームレスな支援をコーディネートする部署の専従医師であり、患者満足度調査を担当していたら……PXに行き着いたとのこと。それには曽我代表理事との運命的、必然的な再会があったようです。再会ドラマが気になる方は、西本先生に直接お聞きください。
フォーラムでは、自院で実施した日本版PXサーベイの入院編、外来編について報告します。入院、外来とも実施した初の病院の取り組みは興味深いですね。今後実施したい病院関係者は必聴です。
第1回PXフォーラムの各講演、事例紹介の抄録をホームページ上で公開しています。参加を希望される方は、お申し込みフォームからお願いいたします。
残席わずか!
第1回PXフォーラム ~医療の質の「未来」を創る~
11月3日(土)13:30-17:30(開場13:00-)
秋葉原UDX(JR秋葉原駅徒歩2分)
演者:
青木拓也(京都大学大学院医学研究科 医療疫学分野家庭医療専門医・指導医)
安藤 潔(一般社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会 理事/東海大学総合医学研究所所長 東海大学医学部血液・腫瘍内科教授)
井村 洋(飯塚病院 特任副院長)
曽我香織(一般社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会 代表理事/株式会社スーペリア 代表取締役)
中澤 達(北里大学大学院 医療マネジメント教授)
西本祐子(国立病院機構九州医療センター 小児外科医長/メディカルコーディネートセンター副センタ―長)
引田紅花(前橋赤十字病院 総務課広報広聴係主任)
藤井弘子(一般社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会 メディア統括マネジャー)
※【お知らせ】日本PX研究会について※
会員登録につきましては、2018年11月4日から有料とさせていただきます。
編集部から
世界遺産・富岡製糸場を見学してきました。地元建材を使ったフランス式建造物は素晴らしく、来春まで国宝「西置繭所」の保存修理工事の見学ができるし、隈研吾の建築物(市役所と商工会議所)もあるので建築好きの方はぜひ。個人的なお勧めは言うまでもないのですが、カイコ(蚕)です。フランス式繰糸器(煮た繭から製糸する)の実演で、繭が薄くなってきて萎びたサナギが透けて見えてきた時、命の尊さと儚さに切なくなりました。(F)