日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.158

1.NHSのPX Book
2.入退院でPXが変わる!?
3. 今後の予定

1.NHSのPX Book


英国NHS(National Health Service;国民保健サービス)の変革を支援していたNHS Institute for Innovation and Improvement(イノベーションと改善のためのNHS研究所)では、改善に向けたガイダンス&サポートブック「The Patient Experience Book」を発行しています。PX(Patient eXperience;患者経験価値)改善のための指南書ともいえる、その概要を紹介します。

 

NHSは、診療所・病院を中心とした医療システムと、地方自治体の公衆衛生部門による地域保健サービスとを統合した、1948年にできた組織です。現在に至るまで70年以上続いていますが、その間何回か大きな組織再編が行われてきました。2013年、保健省やNHSから独立した公衆衛生当局(Public Health England)が設置されるなど、医療システムと公衆衛生との新たな役割分担が行われたのに伴い、同研究所は閉鎖されて「NHS Improving Quality」に置き換わりました(さらに2015年にNHS England内のSustainable Improvement Teamに移管しています)。このブックは2013年、組織改編のタイミングで、それまでの取り組みをまとめたものです。

ブックは、10つのセクションに分かれていて、「なぜ私たちはPXを改善しなければならないのか?」「PXの改善方法」「エクスペリエンスの測定方法」といった内容になっています。

 

第1セクション「PXとは何か?」では、PXを語る際に使用される言語が統一されておらず、一貫性に欠けていることが混乱を招いていると指摘しています。共通言語のもと、患者と一般市民、地域コミュニティなどのステークホルダーが医療サービスの意思決定に関与させることが改善につながると言います。

そしてPXとは、「患者がケアを受けるプロセスのなかでどう感じるか」ということです。プロセスにおいては快適でケアが行き届いた、安全な場所で適切な治療を受けられる環境と、自信を持って選択するための情報を持つこと、公平な立場で話せて話に耳を傾けられること、誠実さとリスペクト、尊厳をもって扱われることが求められるとしています。

NHS研究所ではPXの改善によるエビデンスとして、▽PXの低さは病院の評判に影響する、▽患者がケアと、情報に基づいた選択する能力をより多く持っているとPXは改善する、▽エクスペリエンスと健康に関するアウトカムとの関連、▽エクスペリエンスとケアのコストとの関連(PXが低いと高コストになる)、▽スタッフとPXとの関係性(PXが低いことはスタッフに悪い影響を及ぼす)――を挙げています。

病院におけるPX改善のポイントは、▽リーダーシップのあり方を変える、▽医療システム全体の変更、▽患者とその家族がケアにかかわる、▽患者、家族、ケアスタッフ、改善のためのPXの測定値からの継続的なフィードバックを重視、▽小さな、ランダムな活動ではなく統合された活動プログラム、▽望むべくバリューをはめ込むこと、組織全体の行動の重要性を認識する、▽優れたPXを提供できるスタッフに権限を与える、▽臨床的関与と専門家のエンパワーメント――だといいます。

 

このほかにもPXを測るために必要なことやケーススタディなど、さまざまな取り組みやアイデアが紹介されています。PX改善に向けたヒントを見つけてみてはいかがでしょうか。

 

Link:https://www.england.nhs.uk/improvement-hub/wp-content/uploads/sites/44/2017/11/Patient-Experience-Guidance-and-Support.pdf

 

 

2. 入退院でPXが変わる!?


入院時と退院後ではPXは変わるかもしれないーー。メリーランド大学医学部の研究者がこのほど、同じ患者の入院時と退院後の患者満足度(PS;Patient Satisfaction)に矛盾を見出したと公表しました。

 

医師のKatherine Josephさんとその同僚は、2017年6月〜2018年3月にかけて整形外科関連の手術を受けた入院患者231人を対象に調査。55.5%は退院後4〜6週間後に高いPSスコアを示しました。この調査では入院から48時間後の各患者の病院でのPSについて、自由回答形式の問いにより0〜10のスケールで評価しました。同じ患者に対し、退院後4〜6週間後に2回目の同じ問いによる調査をしました。

入院患者のPSスコアの平均値は9.5で、そのうち高スコアだったのは50.2%、21.2%が中程度、28.6%が低スコアでした。退院後では平均値は変わらなかったものの、高スコアは55.5%、中程度は31.8%、低スコアは12.7%と高スコアの割合が増え、低スコアの割合は減っていました。

Katherineさんらは、「入院患者、退院後にそれぞれエクスペリエンスとして報告されたデータからは、入院時と退院時の記憶との間に欠如があることで一致しました」としています。「この研究では、入院患者のエクスペリエンスを正確に定量化するためのPS測定の有効性と、その管理方法への懸念を示しました」とKatherineさんは話しています。

PXサーベイについても入院時に質問票に記入してもらうか、退院後に郵送するかで、結果が変わる可能性があるということです。サーベイの実施方法の検討が必要になってくるかもしれません。

 

Link:https://www.healio.com/news/orthopedics/20210622/patient-satisfaction-after-discharge-may-not-match-inpatient-experience

 

 

3. 今後の予定


7月3日スタートの「第3期PXE養成講座」では受講生を募集しています。残り1席となりました!6月26日(土)まで募集しています!!

https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

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PX研究会では12月4日(土)に「第4回PXフォーラム 変革から成熟へーWithコロナ時代のPXがもたらすものー」をオンラインで開催します。PX研究会会員(法人・個人)は無料。会員外の方は第1・2部で3000円となります。第1部、第2部のみ(各1500円)参加も可能です。フォーラムの詳細と申し込みは下記リンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxforum2021/

 

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第5回寺子屋を8月21日(土)に開催します。日本における“PX推進ホスピタル“、国立病院機構九州医療センターの2020年度の取り組みを報告します!

 

第5回PX寺子屋

・日時:2021年8月21日(土)13:00-14:00

・テーマ:「PX概論」 訪問看護ステーションアクティホーム 事業責任者 講内源太

「九州医療センター2020年度PXサーベイ実践報告」 国立病院機構九州医療センター 小児外科医長 西本祐子

https://www.pxj.or.jp/events/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

 

編集部から


先週は身体に悪い食べ物を載せましたが、できるだけヘルシーな食生活を心がけています。「高たんぱく」「低糖質」というキャッチに弱いです笑。(F)