日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.189

1.PX設計の子ども病院

2.非接触化とPX
3. 今後の予定

1.PX設計の子ども病院


マネジメント層の医療関係者の最近のトピックは、2022年度診療報酬改定ではないでしょうか。私が特に注目したのは、ヤングケアラーや家族が対象として追加された「入退院支援加算」をはじめとした、子どもへの支援の評価です。日本でも小児医療施設などでは子どもの療養環境がよく考えられていますが、米国ではPX(Patient eXperience;患者経験価値)を形にした小児専門病院がつくられています。

 

その病院は、フロリダ州オーランドにあるNemours Children’s Hospitalです。レイク・ノナ医療都市に60エーカーの土地、4億ドルを投じて最先端の設計を施したものです。グローバル・デザインンファームのIDEOが設計を担当しています。

Nemoursは米国各地でプライマリ・ケア、病院、クリニックベースの専門ケア、予防、健康情報サービス、医療教育プログラムを提供する小児医療システムです。Nemoursがブランド力を強化しようと考えたとき、2つの課題に直面しました。1つは、「患者さんがより多くの情報や選択肢を手に入れられるようになったこと」。そしてもう1つは、「代替医療センター、小売店型クリニック、緊急医療センターなどの新規参入により市場シェアが奪われつつあること」でした。そこで、革新的で差別化されたPXを創造することによって業界のリーダーとして確立することを考えました。

病室の照明は入院している子どもが好きな色に変えられるそうです。カラフルで美しいですね!日本のある病院のICUでも同じ試みがされていました。

 

IDEOは博物館、学校、玩具店、動物園などからインスピレーションを得ました。また、デザイナーは、患者、両親、家族、医師、看護師、サポートスタッフ、そして外部の医師へのインタビューを行いました。最終的なデザインにつながった重要な洞察は、この病院ではすべての患者を同じように向かい入れ、対応しているということでした。

さまざまなニーズに対応するために、チームはエクスペリエンスの設計図を作成しました。素晴らしい環境、統合されたサービス機会、市場を差別化するスペースやツールを通して、患者や家族を迎え入れ、導き、サポートすることに焦点をあてました。デザインの外観、感触、価値を検証するために、デザイナーはウェルカムステーション、待合ラウンジ、診察室の実物大のプロトタイプを作りました。

 

その結果、病院は以下のようなコンセプトでつくられています。

・コンシェルジュのような出迎え役のスタッフが家族を迎え、質問に答える
・ファミリーラウンジにある個室のダイニングルームにはキッチンをつくり、家族で一緒に料理をつくって食事ができる
・救急外来では患者を迎え、病状別にトリアージし、すぐに病室に案内する
・患者情報画面は医師や看護師が診察室に入る前に患者の情報を確認することができ、患者との対話を可能にし、信頼関係を構築
・個人用のRFID(電波を用いてICタグの情報を非接触で読み書きするシステム)対応ブレスレットで、ケアチームの状況を把握することができる
・RFID対応ブレスレットをトリガーとするスマートルームで患者を出迎える

 

同院のアメニティは患者と家族を導き、サポートすることに焦点を当てたものとなっています。詳細は下記ページをご一読してください。

 

Link:https://www.ideo.com/case-study/a-hospital-centered-on-the-patient-experience

 

 

2. 非接触化とPX


米フォーブス誌に掲載された、同誌協議会メンバーのKelly Feistさんの最新の寄稿では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行を受けてあらゆるものの非接触化が進むなかで、病院でのPXについて考察しています。

 

「ヘルスケア業界では、消毒などのプロセスの強力かつ迅速な導入や事務手続き、手術にいたるまで、あらゆるものの非接触化が主流になるはずです」とKellyさんは指摘しています。

パンデミックの初期には、手指消毒剤やPPE(個人防護具)、清掃用品が供給不足に陥り、調達リストの上位に入っていました。接触頻度の高い表面の消毒に時間を費やす一方、医療スタッフの手洗いの回数の少なさから、手洗い工程が厳格化されていました。除菌は手指や部屋だけでなく、食事で使うカトラリーやガウンまで含まれます。

陰圧ができる空調システムを導入した病院もあり、これらの材料費や人件費などのコストの一部は患者に転嫁されています。「病院は感染をどれだけ抑えられるかで評価され、報酬が支払われるため、感染対策の強化はパンデミックのピークを過ぎても続くとみています」とKellyさん。テクノロジーの導入がベストプラクティスを順守しやすくするとしています。

小売業でパンデミック前から取り入れられていた、カーブサイドピックアップ(オンラインで注文し、店舗でドライブスルー形式で受け取る形式)の非接触型サービスが、ヘルスケアにも期待されることになりそうです。

より良いレベルのケアを提供するためには患者との接点を減らし、プロセスを改善することでよりパーソナライズされたエクスペリエンスとします。非接触型チェックイン、ドライブスルーでのCOVID-19セルフテスト、待合室に滞在する人数を減らすための予約時間の調整、診察に立ち会うスタッフ数の削減、遠隔医療、ウェアラブル端末による集団の健康状態の追跡といったあらゆるところに適応できます。

「非接触化のテクノロジーへの移行は技術を取り入れるだけでなく、PXとテクノロジーがもたらす影響を総合的に考えることです。私の会社のクライアントの多くは試験的に導入し、テスト・学習・成長のアプローチを経て、全体に展開することで成功を収めています。患者は自分の健康状態に焦点を当て、適切なタイミング・レベルでケアが受けられるような、統合的かつ予測可能なパーソナライズされたエクスペリエンスを期待するようになると思います」

 

全文は下記リンクにあります。

Link:https://www.forbes.com/sites/forbestechcouncil/2021/12/10/covid-19-adaptations-in-healthcare-from-a-new-definition-of-sanitization-to-working-hands-free/?sh=69945645459a

 

 

3. 今後の予定


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では、3月5日(土)12:30-13:30、オンライン勉強会「第8回PX寺子屋」を開催します。

テーマは以下になります。HCD(Human Centered Design;人間中心設計)とはユーザーの視点に立った設計を行うことで、ものづくりに欠かせない視点です。PXに取り組むうえで幅が広がる知識を得られる機会です。一般1000円、会員は無料となります。ぜひご参加ください!

 

「PX概論」      医療法人社団 松井病院看護部長 菊池明美

「PXとHCDの親和性」 神奈川大学 経営学部准教授博士(情報学)/HCD-Net理事/ 認定人間中心設計専門家 飯塚 重善

https://www.pxj.or.jp/events/

 

 

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PX研究会では医療機関や企業でPXを広めるエバンジェリストとして、PXE(Patient eXperience Expert)の認定を行なっています。現在、2022年度の第4期生の募集を開始しています。PXについて体系的に学べます。多くの方のエントリーをお待ちしています。詳細と申し込みはリンクからお願いします。

https://www.pxj.or.jp/pxe/

 

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


猫にもマイブームがあるみたいで、最近は浄水器から水を飲みたがります。「見て見て」と圧が強く、スマホには水を飲んでいる猫の写真ばかり増えて困っています。(F)