日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.232

1.女性患者のPXが高い病院
2.患者ケアのプラチナルール
3. 今後の予定

1.女性患者のPXが高い病院


米国Women Certified社は、女性視点から最高のPX(Patient eXperience;患者経験価値)を提供する2023年の病院ランキング(America’s 100 Best Hospitals for Patient Experience)を発表しました。1位となったのは、テネシー州のUnity Medical Center で、PXスコアは100点満点中95点でした。85点以上を獲得した病院は85病院ありました。

 

Women’s Choice Awardは、「Working mother magazine」の元発行人である同社CEOのDelia Passiさんが設立。女性マーケティング分野を専門とし、自身の経験から女性がより賢明な医療の選択を行えるようにとの思いから、アワードを行っています。

女性の賢いヘルスケア選択を支援することを目的とし、女性患者の経験に重点を置き、最高レベルの質の高いケアを実証している病院を特定することによる病院選びの簡素化を目標にしています。同社によると、自分と家族のために医療に関するすべての決定の90%を女性が行っています。また、86%の女性が、PXが高いと評価された病院のために50マイルまで移動すると回答しています。

女性が病院を選ぶ際に何が最も重要であるかを、何万人もの女性を対象とした調査と、ウォートン・スクール・オブ・ビジネス社と共同で行った、女性と男性の消費者体験の違いに関する調査に基づいて実施。この調査から、臨床のパフォーマンスとPXを切り離すことができないことがわかっており、患者からのフィードバックに基づく推奨度合いを考慮した内容となっています。

受賞の決定にあたっては、CMS(The Centers for Medicare and Medicaid Services)が公開する最新情報、および適切な情報源から得た認定情報を使用しています。場合によっては、何千人もの女性を対象に調査を行い、どの指標が最も重要であるかを判断しているといいます。手法は100%客観的で、再現性があり、均一なものとしています。

 

評価は以下の観点から行われています。

患者からの推薦

自分や家族にとって重要な健康問題を治療する病院を選ぶとき、かつての患者から推薦された医療機関を理解することは、非常に大きな価値があります。また、医療消費者を対象とした調査によると、82%が悪い経験をした結果、医療機関を変更すると回答しています。このような理由から、患者が病院を推薦する可能性がさまざまな検討項目の中に含まれています。

清潔さ

病院内の適切な清掃は、危険な感染症や疾病のリスクを軽減し、訪問者から外部コミュニティにウイルス・細菌が流出しないようにするうえで重要な役割を担っています。患者視点から見た清潔さの認識は、患者がポジティブな経験をしているかどうかの強い指標となります。

薬の説明

医療関係者は、患者の約半数が薬の服用を間違えていると推測しています。物忘れが原因で薬を飲まない患者もいますが、多くの場合、処方薬の不適切な服用は、医療スタッフと患者の間のコミュニケーション不足に起因しています。患者が、正しい薬の服用方法、起こりうる副作用、薬を飲み切らなかった場合の影響、危険な薬物相互作用などを明確に理解していない場合、患者は自分の健康にとって重大なリスクとなりうる画一的な判断を下す可能性が高くなります。

患者が服薬についてどの程度説明されたかという経験、患者さんの前向きな(そして安全な)経験を決定する重要な要素です。病院は、退院時に適切なコミュニケーションを提供することによって、入院中と自宅の両方で服薬アドヒアランスを維持する厳格な手順を持つことになります。

患者ニーズを優先する

すべての患者は、医療や身体的なサポートから衛生や栄養補給まで、さまざまなニーズを病院のスタッフに依存しています。 もちろん、患者が必要なときに必要な配慮を受けることが最も重要であることは言うまでもありません。そのため、「America’s 100 Best Hospitals for Patient Experience」では、患者さんが助けを求めたときにすぐに対応してくれる頻度を評価基準のひとつにしました。また、安らかな眠りを得ることは、すべての人の健康にとって重要ですが、特に病院では患者の回復を促進します。そのため夜間、部屋の周囲が静かかどうかという点で、患者が病院をどのように評価するかも、この賞を受賞するための重要な要素です。

 

受賞した病院の多くの共通点としては、以下を挙げています。

患者中心のケアに注力

患者中心のケアとは、PXに関係なく医師の視点が優先される医師中心のモデルとは対照的な、患者の満足を中心としたケアを意味します。臨床結果だけでなく患者満足度も向上する、最高の医療結果をもたらす納得のいくモデルです。このモデルに従う医師は、患者とのコミュニケーションが円滑になり、より正確に薬を処方したり、診断検査や紹介、長期入院が実際に必要なのかどうかを判断したりすることができるようになります。また、看護師のコミュニケーションが含まれています。実際、看護スタッフは患者と最も接する医療の専門家であり、PXと医療安全において同様に重要な役割を担っています。

効果的な疼痛管理

入院というと不安な気持ちになりがちです。これは、女性も男性も同じで、健康状態が悪くなることを恐れるだけでなく、入院に伴う痛みも恐れるからです。痛みの管理は医師の重要な仕事と考えられていますが、受賞した病院の多くは、痛みの管理に携わる専門家を徹底して採用することで成果を上げています。看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、統合医療(マッサージ、鍼治療、リラクゼーションなど)、心理士、緩和ケア、家族代行、疼痛管理専門家などは、患者さんに効果的な疼痛管理戦略を提供するために有効なチームとなります。

ミッション・ドリブン・リーダーシップ

組織内に優れたリーダーシップがあれば、顧客、つまり患者に最高のものを提供しようという強い意識とモチベーションを植え付けることができます。優秀な医師や医療スタッフの採用から、最先端技術の導入に至るまで、患者にポジティブな経験を提供することが、成功への近道となります。

 

 

全文は下記リンクからご一読ください。

Link:https://womenschoiceaward.com/hospital-methodology

Link:https://womenschoiceaward.com/what-it-means-to-be-an-americas-100-best-hospitals-for-patient-experience

 

 

2. 患者ケアのプラチナルール


医療における新しい原則は、患者の価値観を理解することであり、患者が医療者の価値観を共有していると仮定することではありません――。患者ニーズ、希望を理解することが患者にプラスになるだけでなく、医師のEX(Employee eXperience;従業員満足度)を高め、燃え尽き症候群が減るといいます。米国サイエンス誌『Scientific American 』の記事を紹介します。

 

医学の分野では、他人のために選択をしたり、影響を与えたりすることによって利害関係が特に大きくなることがあります。そのような選択は時に生活の質、さらには生存の可能性にさえ影響を与えます。医療が父権的なものから個人的なものになるにつれ、新しい倫理的ガイドラインが必要な時期に来ています。カナダのマニトバ大学精神医学教授のHarvey Max Chochinovさんが提唱する「プラチナルール」がそれです。

緩和ケアの専門家であるHarveyさんが2022年、『JAMA Neurology』誌に発表したエッセイ「Ellenからわかるプラチナルール」で、この原則を雄弁に語っています。Harveyさんは脳性まひで重い障害を持った亡き妹Ellenさんの健康危機の話から始めます。Ellenさんは脳性まひで重い障害をもっていましたが、集中治療室の医師は、Ellenさんの身体のゆがみや呼吸困難を見て、呼吸チューブを入れるかどうか迷っていました。「Ellenさんは雑誌を読みますか?」。医師からのこの問いに対し、「Ellenのことを知ろうとしたのではなく、彼女の命が救いに値するかどうかを判断するための不可解な質問だった」と、Harveyさんは書いています。Ellenさんは本をよく読み、人生のシンプルな楽しみをたくさん味わっていました。しかし、車椅子を使う身体の弱い彼女の生活と、医師が彼女の状況で何を望むかという感覚との間の溝は、ゴールデンルール(黄金律)で埋めるにはあまりにも広すぎました。

「他人の人生経験、他人の感性、他人の視点が自分の視点と大きく異なるとき、他人が何を必要とし、何を欲しているか、自分を絶対的なバロメーターとして使うことで破綻につながります」と、Harveyさんは説明します。「私たちは自分の個人的な偏見が、患者に対する認識や対応の仕方を形成していることを認識しなければなりません」

 

プラチナルールとは、医療においては患者の自律性、公平性、多様性に関する現在の考えを簡潔にまとめたものです。患者のニーズや希望を理解しようと努力することは、そのすべてに応じることではありません。またすべての患者が、すべてのことをいつでも受けられるわけではありません。それが限られた資源しかない医療システムの現実であることを受けとめます。限られた資源の一つに時間があります。患者を個人として知ることが、数分あるいは数時間の追加投資を意味することは否定できませんが、このような投資は費用対効果が高いと考えられます。患者が何を望んでいるかがわかれば、彼らが望まないものを与えるために費やす時間を減らすことができるからです。

プラチナルールの適用は臨床医にも利点があります。「医師が患者と感情的につながることで、よりよい仕事ができるようになります」とHarveyさんは言います。「そして、仕事の満足度が上がり、燃え尽き症候群が減るというデータもあります」。患者が自分の意見を言えない場合や、家族など愛する人が患者の意思を確認できない場合、臨床医はプラチナルールを適用することが難しいかもしれません。ただ、適用しようと努力することで、医師が自身の選択が賢明かどうか、十分な謙虚さをもつことができます。

 

全文は下記リンクにあります。

Link:https://www.scientificamerican.com/article/better-patient-care-calls-for-a-platinum-rule-to-replace-the-golden-one/

 

 

 

3. 今後の予定


第5期生のPXEの募集を開始しております。

2023年7月開講の全5回の養成講座では、PXの基本的な考え方からPXサーベイの実践、患者ジャーニーマップの作成、患者の思いを引き出すコミュニケーション法などを学ぶことができます。

患者視点の医療サービス提供を実現したい方であれば、医療者に限らず、どなたでも受験可能です。医療現場や職場でPXを向上させる旗振り役として、私たちと一緒に活動しませんか?

概要および申し込みは下記リンクからお願いします。

Link:https://www.pxj.or.jp/pxe5/

*PXEの第1−4期生で、養成講座やPX寺子屋の運営をお手伝いしてくださるサポートメンバー(ボランティア)を大募集しています。希望される方は下記メールアドレスにご連絡ください!

info@pxj.or.jp

 

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※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


コロナ禍で大人数で集まったり、まだまだ海外にも気軽に行けないなか、ひっそりと2人新年会をしました。中国の地方都市の食堂で、料理も日本人の舌にアレンジされておらず、旅行気分も味わえました。(F)