日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.73

1.PXとジェンダーとの関連
2.連載「Patient Stories」第14回  Knocks on wood(くわばら、くわばら)
3. 今後の予定

1.PXとジェンダーとの関連


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会のメールマガジンでは以前、企業のCX(Customer Experience;顧客経験価値)向上事例を紹介する連載をしていましたが、多くの企業で共通していたのはトップがCXを重視し、その考え方が末端のスタッフにまで浸透しているということでした。CXを医療に置き換えたものであるPXについても、トップの考え方が大きく影響します。病院トップ(CEO)のジェンダー(性別)がPXに影響しているという興味深いアメリカの研究論文を見つけたので紹介します。

 

医療マネジメントの研究者であるオーバーン大学のGeoff Silvera助教授とテキサス大学サンアントニオ校のJonathan R. Clark准教授は、CEOのマネジメント力がケアの質やPX、医療安全などに与える影響を調べています。患者と接する時間量や利用するリソースの選択は、トップのマネジメントで決定するとしています。

Silvera助教授らの研究では、特に人口の多い都市部の大病院においては、女性のCEOが男性のCEOよりも対人関係をより早く改善することができるというエビデンスをみつけました。そして特に過酷な状況下では、女性CEOは患者中心主義を志向する組織変革を行う傾向があると結論づけました。さらに病院でPXを改善するには女性を昇進させ、CEOの役割を担うことと患者中心の医療組織づくりの両方を考慮する必要があるとしています。

なぜ女性のCEOが対人関係の改善やPX向上に優れているかという点については、推定として女性の共感と思いやりの能力の高さを挙げています。同時に、男性のCEOがより共感力と思いやりをもつことでPX改善ができるとも指摘しています。

日本では近年、女性医師が増えていて医学部入学者の3分の1と言われていますが、OECDの2018年統計によると、加盟国34カ国のなかで医師数に占める女性の割合は21.1%と最も低い数字でした。日本の病院数は約8400、そのうち女性が理事長・院長を務めている病院はどれだけあるのかが気になります。

Link:https://cla.auburn.edu/perspectives/articles/study-by-silvera-finds-female-hospital-ceos-better-for-patient-experience/

 

 

もう1つ、PXに関連するジェンダーの研究としてメリーランド州のサイナイ病院やオハイオ州クリーブランドクリニックの医師らが2009~2015年までに股関節全置換術(THA)を受けた患者692人のPXを調べた結果があります。

病院PXスコアには性別差がなかったものの、PXを高める要因となる優れたケアを何と考えるかについては、性別による意識の違いがあったというものです。女性のPXは、看護師や医師とのコミュニケーションといったスタッフの反応の速さに最も影響を受けていました。男性は疼痛管理がケアに対する満足度として最も大きな影響を及ぼしていました。性別に基づいた取り組みが、患者満足度(PS)向上、病院のランキング改善につながるケースがあるとしています。

Link:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28574128

 

 

2.連載「Patient Stories」第14回  knocks on wood(くわばら、くわばら)


いいチームを組むための医療者を探すこと、患者として賢くあること、前向きな姿勢、そして祈り――。「Patient Stories」の第14回は、2回のがんにかかった患者経験が語られています。病気と向かい合う、ともに生きる心得、心情が伝わる内容です。

 

☆できる限り最高の人生を送る

Bill Fenigerさんは2回、がんを患いました。クリーブランドクリニックの泌尿器科医のAmr Ferganyさんとは、がんとの闘いでいいチームをつくっています。

2011年にBillさんは腎臓がんになり、Amrさんが腎臓の20%を切除しました。7年後のフォローアップの検査で、BillさんはステージⅡの膀胱がんだとわかりました。検査結果に途方に暮れましたが、治療のためにAmrさんとクリーブランドクリニックがんセンターを信頼し、行くことに迷いはありませんでした。「ここのような最新のがんセンターはこの国において、ほかにありません。知識は最大の資産なので、膀胱を取り除く前に徹底して調べました」と Billさんは言います。

ステージⅡの標準的な治療で膀胱を摘出する代わりに、AmrさんはBillさんに膀胱温存プログラムへの登録を提案しました。特定の化学療法と10週間にわたる放射線治療を必要とするものでした。治療後にがんが根絶できなかった場合は膀胱を摘出する必要がありました。Billさんは10週間連続で週4日、トレドの自宅からクリーブランドクリニックに15分間の放射線治療を受けるために運転して通いました。毎週木曜日は5時間半の化学療法を受けた後、隣接するホテルに一泊しました。

「もしあなたが自身の闘病をサポートする医師と看護師のチームの一翼を担うと決めたら、チームとともにいる必要があります。彼らが適切な治療を提供していると信頼しなければなりません。それが私がここに来ることを選んだ理由であり、素晴らしいことだとわかります」

10週間、Billさんは肉体的にも精神的にも最高の経験をしました。毎日の治療後、自宅に帰り、トレッドミルで30分間身体を動かすことができました。運動と患者としてのよい心構えにより、Billさんはケアスタッフと小さな成果を祝うことができました。

膀胱温存の治療から2年が経ちました。Billさんは定期的なフォローアップ検査を続けていて、がんが永遠に消え去り、「これ以上悪いことが起きませんように」と願っています。しかし、再びがんになるのではないかという考えは決して心から離れません。「1年、5年、6年経ってもがんが再発したという人の話が多すぎます。決して油断できませんが、できる限り最高の人生を送りたいと思っています」

 

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/291-two-time-cancer-survivor-is-living-his-best-life-following-bladder-preservation

 

☆☆☆

日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会では今年から、PXの高い医療機関を投票によって決める「PXアワード」を開催します。医療従事者、患者、企業の方、どなたでも投票可能です。PXの高い医療機関として推薦する医療機関名と推薦理由、あなたの患者としてのストーリーをお寄せください。

PXアワード2019

 

3. 今後の予定


第30回勉強会を10月19日(土)に開催します。患者の声を聞くことで、患者側に立ってPXを考えてみませんか。ぜひご参加ください。

 

第30回 PX研究会 勉強会

10月19日(土)13:30-15:30

場所:(株)セントラルユニ マッシュアップスタジオ

http://www.central-uni.co.jp/mashup-studio/

※通常と開催場所が異なります。間違えのないようにお越しください。

 

「PX概論」 国際医療福祉大学大学院教授 斎藤 恵一

「8カ月に及ぶがん治療における私のPXについて」 ティーペック株式会社 がん対策推進企業アクション 認定講師 花木 裕介

 

会費:勉強会参加費 1000円(研究会員は無料)

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


小さな幸せを、日々探すようにしています。最新刊の某雑誌の端(ページ数が印字されている場所!)に、飼い猫そっくりなかわいいイラストを見つけて癒されました。(F)