日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.118

1.COVID-19による患者行動変容
2.バングラデシュの医療
3. 今後の予定

1.COVID-19による患者行動変容


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による受診控えの話は日本でも聞かれますが、アメリカにおいても同じように、患者の行動変容が見られるようです。COVID-19で患者の行動経済が今度どうなるのか――。オンラインメディア「MedCity News」の興味深いレポートをお伝えします。

 

米ミネソタ州にある医療保険会社Bindの最高臨床責任者である内科医のTara Bishopさんは、「20年近く内科医をしてきて、今経験しているような患者のケアニーズの劇的な変化を見たことがありません」と話し、COVID-19の感染を恐れて心臓発作などが起きてもERに行かない可能性を挙げています。

ヘルスケア業界は何十年にもわたって人々がよりアクティブな消費(医療を受ける)者になるように取り組んできましたが、患者の希望に沿った、価格設定が明確な医療を提供することで、効果的かつ効率的な医療を選択できるようになっていくといいます。「患者が選択する権限を与えられ、より多くの時間を自身の健康管理に費やすことになるでしょう」と指摘。(予防として)症状チェッカーや遠隔医療などの高品質かつ費用対効果の高いツールを使用したうえで、必要があればERに行くといった高価なパスを選択するようになるといいます。

そのためには医療の意思決定をサポートするツールの開発と、遠隔医療をはじめとしたより広範なケアの提供方法の採用が必要としています。

医療機関の問題点として、患者の医療費やPXを理解してこなかったことを挙げています。患者エンゲージメントを見直し、質を高めながらも手ごろな価格の医療を提供できるか、個々のニーズへの対応が求められています。

 

Link:https://medcitynews.com/2020/06/covid-19-triggers-surge-in-healthcare-consumerism-whats-the-potential-for-quality-and-affordability/?rf=1

 

 

2.バングラデシュの医療


アメリカのPX推進団体The Beryl Instituteが発行するオープンアクセス・ジャーナル「Patient Experience Journal」(PXJ)の特別号が7月に発行されました。テーマは、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に立ち向かいながら人のエクスペリエンスに焦点を当て続ける」。今号に寄せられた31の投稿の1つ、「An extensive review of patient satisfaction with healthcare services in Bangladesh」(バングラデシュの医療サービスに対する患者満足度(PS)の広範なレビュー)の概要を紹介します。

当メールマガジンでは以前、連載で各国のPXサーベイを紹介していましたが、医療提供自体が不十分な国でのPSについては取り上げる機会がありませんでした。この投稿を通して差別や健康格差がPXに与える影響について、少しでも考えられればと思います。

 

☆医療サービスの質

BRICsに次ぐ新興経済国であるバングラデシュは、人口1億6000万人超と世界で7番目に多い国であり、2050年までにほぼ倍にまで増加すると言われています。急速に都市化が進み、NCD(Non-Communicable Diseases;非感染性疾患)による健康被害とそれに伴う経済負担が問題となっています。2018年の世界銀行の国別環境分析レポートによると、大気汚染により毎年4万6000人が亡くなっています。

総医療費の約3分の2はOut of pocket Cost(OOP;健康保険でカバーされない自己負担の医療費)によるもので、このうち65%は医療施設ではなく、民間の医薬品小売店に支払われています。専門知識とスキル不足など、医療サービスの質の低さから医療提供者への評価が低くなっています。クレームなど医療施設と患者間で争いが生じた際に仲裁する正式な機関がなく、個々で対処しています。そのため、適切な補償がなく、医療施設へのアクセスもよくありません。

医療施設において、医師の診察は多くの場合1分未満であり、医療スタッフは自分たちのスキルを過大評価し、PXを気にするどころか概念自体を知りません。患者1万人あたりの医師数はわずか5.26人と、南アジアで下位から2番目です。患者1667人に充てられる病院のベッドは1床だけであり、ベッドの34%は医療施設の資金不足のため空床となっています。

また、2017年のBangladesh Health Facility Survey(BFHS)では、地方にある70%以上の医療施設では6つの基本的な器具(体温計、聴診器、血圧計、幼児と成人用体重計、トーチライト)が不足しています。医師は喜んで、もしくは不本意であっても高額もしくは不要な薬を大量に処方し、製薬企業のマーケティング戦略の片棒を担いでいて、慢性のNCDを持つ患者世帯の約7%はOOPにより貧困に追いやられています。

 

☆医学教育の質

2019年の議会において、保健大臣は50%近くの教育職ポストが空席であると報告しました。公立および私立の医科大学の65%は赤字であり、授業は理論的な知識に偏り、一部の私立学生は4年生になっても患者と接する機会がありません。そのため学位を取得した医師が生理食塩水を投与するのに静脈を見つけることができず、経験豊富な看護師の専門的なサポートが必要となります。

医療サービスの質、医療者への信頼性が失われ、大きな供給ギャップが生じています。患者とその家族は治療のために海外に渡航し、そこでの医療提供に感謝しています。インドに行く患者は1日平均1000人、マレーシアでは年1万人が治療をうけています。医療ツーリズムの増加はバングラデシュの経済に大きな打撃を与えています。

 

投稿では、医療資材の不足、患者の負荷が高いことによる医師の忙しさ、医療施設までの距離、長い待ち時間と短い診療時間、医療専門家の患者への共感の欠如、スキルの低さなどが挙げられています。投稿した、ダッカにあるNasirullah Memorial TrustのAbdul Kader Mohiuddinさんは「厚生省は、国家からコミュニティレベルまで、さまざまなヘルスケアインストラクチャを通じ、公的医療の提供を計画および実行すべきだ」と指摘しています。

COVID-19が急速に拡大するなかで、病院が患者の受け入れ拒否をしたり、適切な個人用保護具(PPE)と医療システムがないため対処できていないこと、ICUベッドの不足といった深刻な状況にも触れられています。

 

投稿の原文は下記リンクからダウンロードできます

Link:https://pxjournal.org/journal/vol7/iss2/14/

 

PXJのその他の投稿は、下記リンクから読むことができます

Link:https://pxjournal.org/journal/

 

 

3. 今後の予定


PX研究会では2020年は勉強会を「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していく予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、すべてオンラインでの開催といたします。

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オンラインによる勉強会「第3回PX寺子屋」は、8月29日に開催します。

8月29日(土) 13:00-14:00

PX概論 日本PX研究会理事・東北大学大学院医工学研究科教授 出江紳一

「部下のEXを高める目標設定」 株式会社キャピタルメディカ コンサルタント 大原雄一

 

※Zoom(Web会議ソフト)での開催となります。参加者にはリンクをお知らせします。

※研究会会員は無料、会員外の方は有料(1000円、事前に参加費の振り込みをお願いします)。申し込みは下記リンクからお願いします。

Link: https://www.pxj.or.jp/events/

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

編集部から


お盆休みはどうお過ごしでしたか。私は疲れぎみの身体を休めていました。夏といえば海。最近は美しい海の写真を思い返しながら眺めています。気兼ねなく旅行できる日々が待ち遠しいです。(F)