日本版PXとHCAHPSの整合性が課題
第21回勉強会では冒頭で、米クリーブランドクリニックが制作したPXに関する動画2本を視聴し、参加者同士で話し合いました。PXは「患者が医療サービスを受けるなかで経験するすべての事象」であり、そのため、解釈や受けとめ方は国や医療機関、個人によって違ってきます。
1本目の動画では、クリーブランドクリニックに来院した患者と家族、働いている医療者が抱える事情、思いなどが紹介されています。2本目はクリーブランドクリニックの医師が、自分が患者となった経験を話しています。
参加者からは、「個を個として認めること、テーラーメイドの医療が求められていると思った」「患者だけでなく、自院で働く医療者が病気にかかったときのフォローも考えなければならない」「患者の生の声を聞く機会をもっとつくりたい」「クリーブランドクリニックが築いてきたカルチャーがあれば自ずとPXが高くなる」といった意見が出されました。
続いて、6月8~9日に札幌市で開催された「第20回日本医療マネジメント学会学術総会」に日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会を代表して登壇、発表した西本祐子先生による報告がありました。
西本先生の演題は「医療の質向上における『日本版PX(患者経験価値)サーベイ』の意義」。勤務先の国立病院機構九州医療センターで2017年11月にトライアルで実施した日本版PXサーベイと、同院で2015年から実施していたHCAHPS直訳版との結果を比較しました。「当院の評価は0~10点のどれにあたるか」(HCAHPS)「あなたの入院経験は0~10点のどれにあたるか」(日本版PX)と、同じ内容を聞いても、設問の表現方法によって回答分布が大きく異なると説明。今後の課題として西本先生は、「医療の質を評価し、PDCAサイクルを確保するには、両方のサーベイの整合性をとっていく必要がある」と指摘しています。
「共感」がPX改善のキーワード
6月18~20日に米オハイオ州クリーブランドで開催された第9回PXサミット。PXサミットはクリーブランドクリニックのほか、アメリカ病院協会、アメリカ医師会、病院医学会などが企画しています。今年は40カ国から約2000人が参加しました。
日本PX研究会の世話人の中澤達先生からの参加報告は、クリーブランドクリニックのヒーリングサービスで提供されているアロマセラピーのオイルのお土産を配る……という粋な計らいで始まりました。
今年のサミットでは12の講演、14のワークショップ、40のセッションの計66プログラムが組まれており、中澤先生は参加したプログラムの内容について話してくださいました。
セッションの1つ、「Empowering Patients, Reassuring Providers」(患者の情報力を強化することが、医療提供者に安心をもたらす)では、ウィスコンシン州の小児病棟でのタブレット端末「My Chart Bedside」を使ってマイカルテを作成した事例が紹介されました。
My Chart Bedsideは患者とその家族に対し、バイタルサインや投薬リスト、治療スケジュール、教育などの情報を提供、ケアスタッフとのコミュニケーションツールにもなります。患者が自分自身のケアと意思決定が行えるようになるというメリットがある一方で、コストや患者のプライバシーの問題、タブレットの確保、スタッフの作業負荷の増加が懸念材料として挙げられていました。セッションでは、ファシリテーターと参加者がMy Chart Bedsideを使うための病院のサポートの獲得、成功させるために組織レベルで行わなければならない決定事項について検討しました。
そのほか、「Virtual Visits」(仮想訪問)ではスマートフォンを使った遠隔診療で共感を伝達するための方策について発表。いかに患者とつながり、包括的かつ思いやりのあるケアを提供するかを戦略的に考えました。「Organizational Grit in Health Care」(ヘルスケアにおけるグリット組織)では、アメリカでPXサーベイを実施しているプレス・ゲイニー社のチーフ・メディカル・オフィサーが、グリット(GRIT; Guts (度胸)、Resilience (復元力)、Initiative (自発性)、Tenacity (執念) の4つの要素、やりぬく心)を養うためのフレームワークを、医療機関にどう適用できるかを説明しました。
今年のテーマは「Empathy Where You Are」でしたが、中澤先生は「共感、イノベーションという言葉が強調されていて、PXのキーワードになっていると感じた」と指摘。日米の医療環境の違いなどを踏まえたうえでPXのポジショニングを、マトリクスなどを使って分類することを提案しました。
来年のPXサミットは5月13~15日に開催される予定です。
日本医療マネジメント学会学術総会でスープカレーを食べる西本祐子先生と曽我香織代表理事。来年名古屋で開催の同学会には多くのメンバーでエントリーし、ご当地グルメも楽しみましょう