1.PXを改善するピアコーチング
2.米Healthgrades社のPXアワード
3. 今後の予定
1.PXを改善するピアコーチング
PXを高めるコミュニケーションスキルの1つにコーチングがあります。日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会のPXE(Patient eXperience Expert)養成講座でも、患者の物語り(ナラティブ)を引き出す手法としてコーチングを学びます。
全米21州で展開するCommonSpirit HealthのSequoia Hospital(カリフォルニア州)の医師でThe Society of Hospital MedicineのPX委員会の議長などを務めるSwati Mehtaさんによる、ピアコーチング(同僚間でのコーチング)によるPX改善に向けたアプローチ法を紹介します。
Swatiさんは子どものころ、成績がよかった時に母親がつくってくれたレッド・ベルベッド・ケーキを再現しようとしました。オンラインのレシピ検索とケーキ作りの番組を見てもうまくできず、 最終的には高校時代の友人が少しずつプロセスを教えてくれたことが助けとなりました。その友人がダメ出しをせずに、Swatiさんのいくつもの失敗を通じて励ましてくれたことで、傑作となったケーキにたどり着きました。
「最終的に勝利へと導く試行錯誤のプロセスはPXにも当てはまります。人対人のコミュニケーションを学ぶことは、完璧なレッド・ベルベッド・ケーキを焼くことを学ぶことと少し似ています」とSwatiさんは指摘します。オンラインのモジュールと講義は、個人に合わせた1対1のコーチングと励ましほど効果的ではない、という考えです。「医療者への個別コーチングは、臨床医の組織へのコミットメントと患者とのつながりを深めることができます」
Swatiさんは、医療での成功と楽しい人生を送るための「6S」を挙げています。
- Self-Reflection(自己反省)
- Share Best Practices(ベストプラクティスを共有する)
- Set Ground Rules(基本ルールを設定する)
- See the Patient Encounter(患者との接点を観察する)
- Share Feedback(フィードバックを共有する)
- Standard Check-Ins(標準となる手続き)
最初のステップである「Self-Reflection」。患者とのつながりに関する現在のスキルについて考えてもらいます。具体的には、「PXが重要だと信じている?なぜ?」「強みは何?」「自分の弱点と改善の見込みがある分野(共感を伝える、患者に合わせて寄り添う、自己紹介、アイコンタクトなど)がわかっているか」「モチベーションを高める環境とは? いくつかの不必要な行動を改めるためにも、モチベーションを明確にするのを手伝う」「ポジティブなPXを提供するうえでの障壁がわかっているか」を投げかけます。
「Share Best Practices」では、模範としてコーチ自身のPXを高めるスキルを共有し、データをもとに患者対応のベースラインを確立します。「Set Ground Rules」はアジェンダと標準ワークフローを確立したうえで測定可能な目標(コーチングを受ける医療者が自己評価で測定できる患者コミュニケーションの改善、患者からのクレームの減少)を設定します。
続いて「See the Patient Encounter」を行ったうえで、「Share Feedback」のステップに進みます。コーチは患者への対応を観察し、「どうだった?」と聞きます。そのうえで3対1の割合で、よかったことと改善点を伝えます。「今日は素晴らしい仕事をしてくれました。さらにいくつかの接点を経て、これらのスキルが確立できるのを楽しみにしています」などとポジティブな記録で締めくくることで、やる気と元気を与えます。
「Standard Check-Ins」としては、▽コーチングの開始日/終了日の設定、▽データ、スコア、ポジティブなストーリーを共有するための毎週のミーティング、▽スコアの改善、患者からの短いフィードバックなど、“小さな勝利”をお祝いする、▽権限をもつチームメンバーが「1 つ見て、1 つ実行して、1 つ教える」というフレームワークを使い、ほかの人に教える権限を与える、▽手続きを文書化し、追跡とレビューができるよう電子フォルダーに追加する――を行います。
「効果的なコーチはスキルが高く、熱心で、共感的で、コーチと学習者(医療者)の関係を大切にします」とSwatiさんは話します。ほかのスキルと同様に、コミュニケーションは実践を通じて教えられ、さらに深めることができるといいます。
PXは患者の臨床的アウトカムとアドヒアランスの改善、再入院を減らすことができ、そのためにも医療者のコミュニケーションスキルの向上が求められています。
余談ですが、、コミュニケーションスキルの獲得の例えに挙げられたレッド・ベルベッド・ケーキは、赤系の色合いが層になっているアメリカ発祥のものだそうです。
2. 米Healthgrades社のPXアワード
米コロラド州デンバーにあるHealthgrades社はこのほど、2021年の「Outstanding Patient Experience Award™」を公表しました。PXの高さが全米病院の上位15%に相当する、417病院が表彰されています。
同社はクライアントである全米1500以上の病院に対し、医師、医療システム関連のリソースを提供しているほか、患者の病院へのアクセスを改善、顧客ロイヤルティを高める支援を行っています。病院のPXを測る手法としては、メディケア・メディケイドサービスセンター(Center for Medicare and Medicaid Services;CMS)提供のHCAHPS( Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems)の患者サーベイを使用。各病院の患者が回答したサーベイの19の設問のなかから10をPX測定指標として適用し、評価しました。
10の設問は、病院の清潔さや騒音レベル、医師や看護師をはじめとしたスタッフとのコミュニケーションなど、病院でのケアに関する患者視点にスポットを当てています。2020年からは新たに、「患者が退院するまでの間、病院スタッフは患者のケアニーズを理解したうえで、いかに上手にコミュニケーションを図っていましたか?」の設問を指標として追加しています。病院の総合スコアで9や10をつけ、家族や友人に病院を勧める患者との相関が最も高い重要な指標だとわかったからです。
同社の2020年の全米病院ランキング1位だったメイヨークリニック(ミネソタ州)は、90%の患者が受診を推薦していて、これは全体平均より20%高い数値となっています。「医師と看護師とのコミュニケーション」「病院の清潔さ」「病室の静寂さ」「投薬の際の説明」「退院後のケアに関する説明」などの設問による総合的なPXランキングで、クリーブランドクリニック(オハイオ州)とともに全国トップを獲得しています。
受賞病院リストとPXの評価は下記リンクから確認できます。
アワード受賞病院一覧
Link:https://www.healthgrades.com/quality/outstanding-patient-experience-award
アワードの評価方法
Link:https://www.healthgrades.com/quality/outstanding-patient-experience-award-2021-methodology
3. 今後の予定
PX研究会では12月4日(土)に「第4回PXフォーラム 変革から成熟へーWithコロナ時代のPXがもたらすものー」をオンラインで開催します。PX研究会会員(法人・個人)は無料。会員外の方は第1・2部で3000円となります。第1部、第2部のみ(各1500円)参加も可能です。フォーラムの詳細と申し込みは下記リンクからお願いします。
https://www.pxj.or.jp/pxforum2021/
***********
7月3日スタートの「第3期PXE養成講座」では受講生を募集中、残席わずかです!
***********
第5回寺子屋を8月21日(土)に開催します。日本における“PX推進ホスピタル“、国立病院機構九州医療センターの2020年度の取り組みを報告します!
第5回PX寺子屋
・日時:2021年8月21日(土)13:00-14:00
・テーマ:「PX概論」 訪問看護ステーションアクティホーム 事業責任者 講内源太
「九州医療センター2020年度PXサーベイ実践報告」 国立病院機構九州医療センター 小児外科医長 西本祐子
***********
※【お知らせ】日本PX研究会について※
年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。
編集部から
6月4~10日は「歯の衛生週間」。この半年あまりで生まれ変わったかのごとく歯磨きに情熱を傾けていて、4種類の歯磨き剤を使い分けています。(F)