日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会メールマガジン/Vol.86

1.2019年最後の勉強会を開催!
2.連載「Patient Stories」第24回  ステージ4の肺がん患者の10年後
3. 今後の予定

1.2019年最後の勉強会を開催!


日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会は12月14日、今年最後となる勉強会を開催しました。

 

2016年からスタートした勉強会はこの日で第31回を迎え、25人が参加しました。勉強会では毎回、初参加の方にもわかりやすくPXを紹介するPX概論を最初に設けています。

今回は、PXE(Patient eXperience Expert; 日本PX研究会が医療現場や企業などでPXを推進する人材を養成しようと今年からスタートさせた認定資格)の第1期生である松下記念病院看護師長の小松良平さんが自らの学びをもとに、PXをわかりやすく説明しました。「病院におけるエクスペリエンスとは、さまざまな経験を評価することで生まれる価値。その人にとってどれだけよかった、大切だったかというニーズにいかにフィットさせるかということではないか」などと話しました。

PX概論のスピーカーを務めた小松良平さん。PXEとして早速活躍いただきました!

 

日本PX研究会では運営メンバーを中心に、「アナリティクス」「サーベイ」「在宅」「PCD(Patient Centered Design;患者中心のデザイン思考)」「広報」などの分科会単位での取り組みを行っています。この日は各分科会のリーダーが1年の振り返りと来年に向けた目標などを語りました。

アナリティクスチームは、日本版PXサーベイを実施する際に、実施する医療機関への負荷をかけないような分析方法を探っています。リーダーである稲波脊椎・関節病院IT・広報部副部長の古川幸治さんは、PXサーベイの完全WEB実施など、今年の取り組みを報告。「来年の目標として、PXサーベイ結果のダッシュボード作成を検討したい。併せて分析結果の広報の仕方も考えていきたい」と力強く語っていました。

アナリティクスチームの古川幸治さんはPXサーベイのWEB実施について報告

 

PCDチームのリーダー、株式会社イトーキメディカル経営研究センタープランナーの能勢恵嗣さんは、「患者さん中心のデザインを考えることでスタッフが活き活きと健康に働けるようになり、モチベーションが上がることで質の高い仕事ができる」と、EX(Employee eXperience; 従業員経験価値)の視点からの病院デザインを提案しました。個々の働き手の活動にふさわしい場所を用意し、活動に応じて自律的に働く場所を使い分けるというオランダ発祥のワークフォーマット、ABW(Activity Based Working)について説明。これからの医療現場に求められる、生産性を上げる8つのワークスペースを紹介しました。

PCDチームの能勢恵嗣さんはEX向上につながるワークスペースを提案

 

代表理事の曽我香織さんからは、2020年の日本PX研究会の活動方針について発表がありました。2020年のテーマは、「EXと全国区」。「EXの可視化とPXとの相関を検証し、学会やPXフォーラムで発表したい」と曽我さん。EXおよび燃え尽き症候群の指標の検討・試用したうえでサーベイを実施することを検討しています。

第31回勉強会の資料は明日20日以降、研究会員専用ページから閲覧可能です。

Link: https://www.pxj.or.jp/memberonly/

日本PX研究会では来年も引き続き、日本でのPX普及に向けて取り組んでいきます。各分科会では新たな研究会員の方と一緒に活動していければと考えています。興味のある方はぜひ、当研究会までご連絡ください。

 

2.連載「Patient Stories」第24回 ステージ4の肺がん患者の10年後


第24回「Patient Stories」は肺がんに劇的な効果をもたらす新しい分子標的薬により、副作用もなく生存率を延ばすことができたという素晴らしい臨床のエピソードです。「副作用がなく、やりたいことがすべてできる」。がん患者にとって夢のような薬がQOLを大きく改善します。

 

☆Life is good!

Sara Whitlockさんにとって2010年の診断結果「ステージ4の肺がん」はショックであり厳しいものでした。当時47歳だったSaraさんは「自分が48歳になり、一番上の子どもの小学校卒業に立ち会えると思っていませんでした」と回想します。

9年後、Saraさんの娘のKatieさんはワシントン大学の学生です。下の娘のElenaさんは2020年5月に高校を卒業します。現在56歳になったSaraさんが、かつては見落とすと思っていたあらゆる人生の節目の出来事がそこにあります。当初5年生存率が3%だったがん患者にとって悪くないことです。

「Saraさんの化学療法と放射線治療は、かなり驚くべき結果をもたらしました。肺がんと診断された時、治療薬はまだ開発されていませんでした」とクリーブランドクリニックがんセンターの 肺がん腫瘍学部長のNathan Pennellさんは述べます。

その試験薬「セルパーカチニブ( LOXO-292)」は同院やほかの医療機関で、3年以上にわたって臨床試験が行われています。2019年に入って、RET遺伝子変異を有する肺がん患者に有効である可能性が発表されました。

Saraさんは2017年から臨床試験に参加しましたが現在、がんの兆候はありません。Nathanさんによると、Saraさんは非小細胞肺がん(NSCLC)であり、肺がん患者の2%しかいない特定の遺伝子の突然変異によって引き起こされています。その変異は多くの場合、がんを急速に大きくし、ほかの部位にまで広がっていきます。そのため、長年にわたる治療は相対的には成功していましたが、肺だけでなく脳、腹部、腸への転移を経験しました。

「この臨床試験の多くの患者は劇的に病状がよくなり、通常よりかなり長く生きています。そして副作用は非常に軽いものでした」

Saraさんは9年以上にわたり、多くのがん治療を受けてきました。「許容できる範囲で薬を使い続け、毒性が強い場合は中止しましたが約1年以内にがんを再発していました」とSaraさん。2017年には腸に転移し、腸の大部分を切除する手術を予定していたとき、デイトンに拠点を置くがん専門医の提案で、Nathanさんに連絡し、ほかの選択肢が可能かどうかを調べたのでした。

Saraさんは臨床試験の資格があることがわかりました。 LOXO-292は経口投与でき、副作用もありません。薬の補充と検査のため、毎月7時間かけてクリーブランドクリニックに行きます。「私はやりたいことがほとんどすべてできています。家族とともに過ごし、子どもたちを大学に送り出しています。人生は素晴らしい!」

Nathanさんは、「患者は治らない病気にかかっていることを知ると怖がります。今では生存の可能性を平均1年以内というのではなく、複数年であると伝えたいと考えています。肺がんが、高血圧や糖尿病のような慢性疾患のように治療できるようになるかもしれません」

出典:https://my.clevelandclinic.org/patient-stories/343-stage-4-lung-cancer-patient-thrives-with-gene-therapy

 

 

3. 今後の予定


日本PX研究会では勉強会を3年間、東京で定期開催していましたが、来年は「PX寺子屋」と銘打ち、全国展開していきます!

内容は、PXの初歩的な話と実践事例(事例はスピーカーによって異なります)の紹介です。年10回程度を予定しており、日時、場所は決定次第、当メールマガジンやホームページでお知らせします。自分の医療機関や地域で寺子屋を開催したいというご要望にもお応えできればと思っていますのでぜひお声がけください。

※研究会員の方が対象です。地方開催の場合は交通費をご負担いただきます

 

※【お知らせ】日本PX研究会について※

年会費は5000円となります。また、法人会員も受け付けております。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

編集部から


グルテン不耐性のため小麦は避けていますが、時々、おいしいパンの誘惑に負けてしまいます。ベーカリー「365日」のレモンミルクフランス(手前)と大好物のカヌレには抗えません!(F)